[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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キャビテーションを利用して「コーヒーかす」から有用物質を取り出す!

(2025年6月01日)

 キャビテーションの強い力を利用して、コーヒー抽出(ちゅうしゅつ)で残ったかすを有用物質であるカフェ酸や微細なセルロース繊維に分解することに、東北大学が成功しました。

 同大大学院工学研究科の祖山 均 教授、廣森 浩祐 助教、北川 尚美 教授は、流動キャビテーションという現象を用いてコーヒーかすの再利用に道を拓きました。コーヒーは世界で毎年1,000万トン以上が消費されているといわれ、コーヒー抽出後のかすはほとんどが産業廃棄物として捨てられています。

 研究グループは、ここに着目しました。コーヒーかすから抗がん剤として応用できるカフェ酸を抽出する技術を開発するとともに、コーヒーかすの粒子をマイクロメートル(100万分の1メートル)オーダーの非常に細かな繊維(せんい)状に分解することに成功したのです。

 これを実現したのが、キャビテーションという流体物理で知られている現象です。キャビテーションは工業機械のバルブ内部や高速船艇のプロペラなどで起こり、渦によって大量の気泡が生まれ、それが潰(つぶ)れる時に非常に大きな圧力が発生して、強靭(きょうじん)な金属製のプロペラを破壊する現象です。

 研究グループは、ベンチュリ効果を利用したベンチュリ管式流動キャビテーション発生装置、及びバルブ式流動キャビテーション発生装置を用い、コーヒー粉末を溶かしたエタノール水溶液内に微細な気泡を発生させ、潰れる時の圧力を利用しました。ベンチュリ効果とは、管の細くなったところを流れる流体の圧力が小さくなる現象です。

 この技術によって、コーヒーかすを粉砕することなく、細かな繊維状にすることに成功し、コーヒーかすの20パーセント重量相当を処理できたそうです。また、この処理にかかる電力量は20分の1になったといいます。

 今回の研究によって、キャビテーションによる渦の効果の有用性が確認されました。今後はコーヒーかす以外のさまざまな食品廃棄物の再利用に適用できるように、研究を続けていきたいといいます。

図1. セルロース粒子(80μm)の解繊 ©東北大学祖山研究室
図2. バルブ下流の渦キャビテーション ©東北大学祖山研究室
図3. コーヒー粉末を非粉砕・非分級で、20重量%以上の高濃度で解繊して得られたセルロース繊維 ©東北大学祖山研究室

 

【参考】

■東北大学プレスリリース
キャビテーションでコーヒーかすを資源に変えることに成功 機能性成分と繊維素材を回収し、廃棄物を削減

サイエンスライター・白鳥 敬(しらとり けい)
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。