[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

環境DNAアーカイブを用いた河川環境の保全
(土木研究所 流域水環境研究グループ 村岡 敬子・柞磨 佑紀)

(2026年6月15日)

 身近な自然である河川や湖沼、土壌などの環境中には、生き物が生活の中で放出したDNAが存在し、これらは「環境DNA」と呼ばれています。環境DNAを分析することで、どのような生物が生息しているかを知ることができ、近年注目を集めています。

 これまでの生物調査では、実際に生き物を捕まえたり、目視で確認する必要がありましたが、環境DNAを使うことで、水や土壌を採取するだけで調査が可能です。そのため、人手や時間、費用といった調査コストを大きく削減できるという利点があります。土木研究所では、環境DNAを新たな河川環境モニタリング手法として活用するための研究を進めています。

図1. 環境DNA調査の概要
図2. 分析手順の概要

 

 さらに、従来の生物調査では実現できなかった新たな可能性として、サンプルのアーカイブ化とその運用が挙げられます。環境DNA調査は、河川水や土壌等からDNAを抽出し、その後分析を行いますが、1回の分析で全てのDNAを使うわけではありません。残ったサンプルを保存しておくことで、後から別の目的で再分析することが可能です。

 これらのアーカイブサンプルは、様々な生物を対象とした追加分析や、外来生物が侵入した初期段階を後から確認したりすることができます。また、時間の経過による生物の変化を追跡したり、将来の環境変化を予測することにも役立つ可能性があります。このように、環境DNAのアーカイブは、河川環境の変化を理解し、今後の環境改善につなげるための重要な情報源となります。

 土木研究所では、こうしたアーカイブサンプルの具体的な活用方法の一つとして、外来生物の早期発見に取り組んでいます。外来生物は日本固有の生態系に大きな影響を与える要因の1つです。一方で、外来生物の防除には多くの課題があります。特に外来生物の防除は、侵入初期の早期発見が有効かつ費用対効果が高いですが、侵入したての外来生物は見つけるための情報が少なく、確認が難しい場合が大半です。その点、環境DNA分析は、実際に生き物を確認できない場合でも、DNAのわずかな痕跡から生物の存在を検出でき、調査も簡単に実施できることから、外来生物の早期発見に非常に有効な手法として期待されています。

 ミズワタクチビルケイソウは、2006年に九州の筑後川で確認され、その後も中部・甲信越・関東・東北へと分布域を急拡大している外来藻類です。この藻類は、河川の景観を損なうだけでなく、水中の魚や昆虫などにも悪影響を与えるため、河川環境や水産業にとって問題となっています。土木研究所では、この種の検出手法を開発した九州大学と連携し、アーカイブサンプルを使って分布調査を行いました。その結果、すでに分布が確認されている茨城県(那珂川流域)や神奈川県(多摩川流域)に加え、当時は報告のなかった大分県(大分川流域)や岩手県(北上川流域)においても、環境DNAが検出されました。これらの結果は、河川を管理する国土交通省に共有することで、外来生物が侵入している可能性に関する重要な情報提供に繋がりました。

図3. 野外で確認されたミズワタクチビルケイソウ

図4. ミズワタクチビルケイソウの環境DNA検出結果

 

 現在、土木研究所では、全国各地で収集した環境DNAサンプル約5,000件について、アーカイブ化してHP上で公開しております。また令和8年度からは、国土交通省が管轄する河川及びダムで実施している「河川水辺の国勢調査」において環境DNA調査が調査項目として実施されます。土木研究所は、これらのサンプルについても、アーカイブとして収集予定です。環境DNAアーカイブが、今後も河川環境の保全に役立つよう、技術の向上と活用に関する研究を進めていきます。

 

村岡 敬子(むらおか けいこ)
国立研究開発法人土木研究所、流域水環境研究グループ特任研究員。
1963年生まれ。1983年より年土木研究所に入所。魚道の研究をきっかけに、土木分野における魚に関わること全般を担当する。2019年から環境DNAの研究をはじめ、主に本技術の社会実装に向けた取り組みを担当している。

柞磨 佑紀(たるま ゆうき)
国立研究開発法人土木研究所、流域水環境研究グループ交流研究員(株式会社 建設環境研究所より出向)。
1996年生まれ。2021年より株式会社 建設環境研究所に入社。主に河川・ダムを中心とした、自然環境に関する調査、分析評価に関わる業務に従事した。2025年より国立研究開発法人土木研究所(つくば)にて、環境DNAに関する研究に取り組む。