[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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「天災は忘れた頃にやってくる」(環太平洋大学教授 兼 国際科学・教育研究所所長 川村 康文)

(2026年8月01日)

1.はじめに

 「天災は忘れた頃にやってくる。」このフレーズは、関東大震災を経験した地球物理学者 寺田 寅彦 博士が残したとされる有名な警句(けいく)です。実は、著者の祖母も関東大震災を経験していて、まだ小学生だったとのことで、お昼前に学校から帰ってきたとき、急に揺れだして怖くて家の門柱にしがみついていたと、話を聞いたことがあります。もう100年前の1923年(大正12年)、マグニチュード7.9と推定される巨大地震が関東地方を襲(おそ)い、死者・行方不明者推定で10万5千人という未曾有(みぞう)の被害をもたらしました。関東がこれほどの大地震に襲われたのは、1855年(安政2年)に7千人以上が亡くなったとされる安政の大地震以来70年近くが経っており、まさに「忘れた頃」にやってきたということです。

 科学的視点から天災を考察することは重要ですが、それとともに社会や文化への影響も考慮し、近代文明の進展が国の安全を脅かす可能性を考察してみましょう。寺田博士が残した随筆は、自然との共生を意識した、天災への対処方法を再考するきっかけを提供する随筆でした。その一部を要約してご紹介します。

 日本は、気象学的、地球物理学的にも非常に特殊な場所にあり世界的にみても災害大国といえます。昔々、人類がまだ原始的な時代は、頑丈な岩山の洞窟に住んでいて、地震や暴風に対して比較的安全でした。文化が進み、小屋を建てるようになっても、テントや掘立小屋であれば、地震に対しては却(かえ)って安全であり、風に飛ばされても修復が容易だったと考えます。

 当時の人々は自分の努力で食べ物や服、家を手に入れていましたので、天災による損害は最終的には個人レベルでの損害であり、回復も各自の努力が必要でした。文明が進むと、人々が集まって社会を作り、色々な職業が生まれました。人は自然をコントロールしようとし、自然に抗するような造営物を作りました。電気や水を運ぶための電線やパイプがあちこちに張り巡らされ、交通網が広がりました。これらは、1箇所に故障が起こればその影響はたちまち社会全体に波及する危険が潜(ひそ)んでいます。

 

2.災害と物理学がつながる実験

 災害と物理学という学問は、地震の揺れや津波の波力、液状化現象といった自然災害のメカニズムを解明し、被害を予測するための不可欠な学問です。このアプローチにより、科学的な観点から「自然現象をどのように理解し、いかに命を守るか」が研究されています。これらことの理解を促進する実験を紹介しましょう。

①液状化実験

 地震は、プレートの運動によって生じる応力が限界に達し、地下の岩石が破壊されることで発生します。地震の際に、地盤がドロドロの液体になってしまう液状化のメカニズムを、透明な容器を使って観察しましょう。

図1. (左)ペットボトルに砂と割りばしを入れたところ。砂の表面すれすれまで水を注ぎます。(右)ペットボトルの側面を軽く叩いたり、振動を与えて観察してみましょう。振動を与えると、割りばしが土の中へ沈んでいきます。

 

用意するもの

 透明なプラスチック容器やペットボトル、砂(園芸用や川砂)、水、おもちゃのブロック(軽いもの、写真では割りばしを使っています)、鉄製などのブロック

実験の手順

 容器に砂を入れ、砂の表面すれすれまで水を注ぎます。水を含んだ砂の上に、おもちゃのブロックを砂に埋めたり鉄製のブロックを置きます(写真では割りばしを使っています)。容器の側面を手やスプーンでトントンと軽く叩いたり、マッサージ器で振動(地震の揺れ)を与えます。

結果

 容器に振動を与えると、水と砂が混ざり合い、砂がドロドロの液体のような状態に変化します。これが液状化現象です。その結果、地下からプラチックのブロックが地上に現れたり、鉄製のブロックが沈んだり、傾いたりする様子が観察できます。

 地震によって砂の粒同士の結びつきが壊れ、隙間にあった水が押し出されることで、地盤の強度が失われる(間隙水圧(かんげきすいあつ)が高くなる)物理現象を体感できます。

 

②ストローウェーブマシン

 次に、地震が起こると津波がくるのかこないのかというところがとても心配になります。ストローウェーブマシンをつくって波動のことを深く理解しましょう。

図2. セロハンテープにストローを等間隔(約15mm)に並べ、ストロー20本の両端にゼムクリップをつけたところ。
図3. 左右を固定し、端のストローを揺らすと、隣のストローに波動が伝わる様子が見られる。ブックエンドなどで固定すると、観察しやすい。

用意するもの

 ストロー40本、紙(15mm間隔で線を入れておく)、セロハンテープ、ゼムクリップ

実験の手順

 粘着面を上にした約1mのセロハンテープの両端を机に固定します。テープの中央に、定規を用いて等間隔(約15mm)にストローを並べていきます(あらかじめ15mm間隔で線を入れておいた紙を使うと良い)。粘着面を下にしてひっくり返し、両端をブックエンドなどに固定すれば完成です。重りを使うとより安定します。ストローの20本にゼムクリップを両端につけ、媒質(ばいしつ:力や波動などを伝える役割をするもの)の重さを変えます。

 ストローウェーブマシンは、ストローとセロハンテープを用いて波の伝播を可視化する物理実験装置です。端のストローを上下に動かすと、その振動がテープのねじれを介して隣のストローへと順に伝わり、波の反射や干渉といった基本的な波動現象を直感的に観察できます。

結果

 津波は単なる波ではなく、海底の急激な変形によって海水全体が持ち上げられて発生する「浅水長波(せんすいちょうは)」です。水深が浅くなるにつれて波の速度が落ち、波高が高くなるという物理法則(波の分散・非線形性)に従って陸地に上がっていきます。

 例えば、波の基本性質として、 進行波、定常波、反射(固定端・自由端)、干渉などを視覚的に確認できます。また、災害への応用として、周期を変えることによって「共振現象」や、異なる媒質(ゼムクリップをつけたストロー)の境界での「波の伝わり方の変化」を観察することで、地震波が地盤によってどう変化するか(地盤増幅など)の理解が深まります。

 

川村 康文(かわむら・やすふみ):博士(京都大学エネルギー科学)

環太平洋大学次世代教育学部教授 兼 国際科学・教育研究所所長、北九州市科学館スペースラボ館長、東京理科大学理学部物理学科嘱託教授(非常勤)、(社)乳幼児STEM保育研究会理事、STEAM保育研究会会長、STEAM教育メソッド研究所所長、1959年京都市生まれ。

歌う大学教授(youtube.com/channel/UCkvlkwzpeJByKw5BA4m5ZRA/featured)みんなが明るく楽しくなる「ぷち発明」を基礎とした「かわむらメソッド」を提唱!専門は、STEAM教育、科学教育、サイエンス・コミュニケーション。

高校物理教師を約20年間務めた後、信州大学助教授、東京理科大学助教授・准教授を経て2008年4月より教授。その後、2025年4月より現職。サイエンス・レンジャー。「温暖化星人から地球をまもる宇宙船にっぽん号のたたかい」の公演は200回を超えている。
慣性力実験器Ⅱで平成11年度全日本教職員発明展内閣総理大臣賞受賞(1999)、平成20年度文部科学大臣表彰科学技術賞(理解増進部門)をはじめ、科学技術の発明が多く賞も多数受賞。論文多数。著書は、「世界一わかりやすい物理学入門」「世界一わかりやすい物理数学入門」「理科教育法」(講談社)、サイエンスコナンシリーズ監修(小学館)など多数。NHK Eテレ「ベーシックサイエンス」の監修および出演。「チコちゃんに叱られる」には10回以上出演。「世界一受けたい授業」や「所さんの目がテン」では一時期レギュラー出演。その他テレビ出演は多数。