「フィトクロム」が植物唯一の赤色光受容体であることを初めて証明:農業生物資源研究所

 (独)農業生物資源研究所は8月25日、「フィトクロム」が植物の唯一の赤色光受容体であることを初めて証明したと発表した。
 フィトクロムは、植物の細胞に存在する色素とタンパク質からなる複合体で、赤い光と遠赤色光を取り込む植物の光受容体のことをいう。
 近年、光照射によって病気にかかりにくくなったり、栄養成分や機能成分が増えたりするという、光の新しい効能を示す研究報告が増えている。このような現象の解明は、新しい植物成長制御技術の開発にもつながるため、光の情報の入口である光受容体の機能解明の研究が、主に実験植物のシロイヌナズナを使って各国で精力的に進められている。
 しかし、シロイヌナズナには、フィトクロム遺伝子が5種類(PHYA~PHYE)もあるため、実験に必要なフィトクロムの機能を全て欠いた変異体を得ることが難しく、実現していないため、「フィトクロム以外に赤色光受容体はないのか?」、「フィトクロムは植物の生存に必須なのか?」などの疑問に対し答えられないでいる。
 一方、イネゲノムの完全解読の結果、イネには3種類のフィトクロム遺伝子(PHYA、PHYB、PHYC)しか存在しないことが分かった。そこで研究グループは、同研究所で開発した「ミュータントパネル」と呼ばれるイネの突然変異体集団の中から遺伝子の塩基配列情報を手がかりに突然変異体「phyA」、「phyC」を分離した。また、同研究所の放射線育種場でのガンマ線照射を利用して「phyB」を分離した。次いで、これらの突然変異体同士を交配することにより変異を集積し、フィトクロムの機能が完全に失われた植物(フィトクロム三重変異体イネ)を作製することに世界で初めて成功した。
 イネのフィトクロム三重変異体を、赤色光の下で育てると、暗黒の中で育てたのと同じ“もやし”になることから、三重変異体は赤色光を感知しないことが分かった。  
 また、圃場で育てると、三重変異体は、矮性で非常に開花が早まり、しかもほとんど種子がつかなかった。
これらの実験からフィトクロムは、植物の唯一の赤色受容体であること、イネの生存に必須ではないが、効率よく光合成を行い、子孫を残すために重要な役割をしていることが明らかになった。
 この研究成果は、8月12日(米国東部時間)に米国科学アカデミー紀要のオンライン版に掲載された。

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