(独)産業技術総合研究所は2月26日、単層カーボンナノチューブ(単層CNT)をゲル電気泳動法という手法を用いて金属型と半導体型に分離することに成功したと発表した。回収率は100%に近く、分離時間も約30分と短く、電気泳動の設備は安価・簡便で大型化し易い。単層CNTの金属型と半導体型の量産可能な分離手法が開発されたのは世界でもこれが初めて。 単層CNTは、直径0.7~4nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)程度の超微細な炭素のチューブ(筒)。黒鉛と同様、炭素原子が6角形の網の目状に結びついてできている。6角形の並び方の違いで半導体的性質を示す半導体型と、金属的性質を示す金属型があり、筒の直径が同程度でも全く相反する性質を示す。 通常、金属型と半導体型は、混在しているが、高純度で両者が分離出来れば、それぞれの特色を活かした利用が出来る。しかし、従来の分離法は、回収率、純度、コストに問題があり、どちらかの型だけを選択的に作る製法も無かった。 同研究所は、単層CNTと同程度のナノスケールのDNA(デオキシリボ核酸)やタンパク質などの生体分子の分離に使われているゲル電気泳動法を用いて単層CNTの分離精製に世界に先駆けて成功した。研究者は、寒天の主成分のアガロースのゲルに単層CNTを分散させ、ガラス管に入れて電気泳動すると、金属型は動いてゲルから抜け出すのに半導体型は動かず、結果として両者を分離出来ることを発見した。通常、ゲルの電気泳動では分子量や長さの違いで分離されるが、単層CNTの場合は全く違った原理によると見られるものの、まだ分かっていない。 単層CNTの金属型と半導体型が簡単に分離出来るようになれば、金属型は希少金属の代わりに液晶ディスプレイや太陽電池パネル用透明電極などへの利用が、また半導体型は高速・透明トランジスタや光スイッチなどへの応用が見込まれる。 同研究所は、この成果を3月27~30日に日本大学で開かれる「第55回応用物理学関係連合講演会」などで発表する。 詳しくはこちら |  |
ゲル中に分散させた単層CNTのゲル電気泳動による金属型と半導体型の分離の様子(提供:産業技術総合研究所) |
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