(独)農業生物資源研究所と麻布大学は8月2日、ブタの体外受精卵を超低温の液体窒素(マイナス196ºC)で保存する新技術を開発し、子ブタの出産に成功したと発表した。
家畜などの哺乳動物では、遺伝資源の維持を目的として、主に精子や胚(はい)を液体窒素中で保存する超低温保存が行われている。しかし、ブタは、ほかの動物に比べて細胞質内に多量の脂肪滴(脂肪の塊)を含み低温傷害を受けやすいため、卵や胚を用いた超低温保存法の開発は、家畜の中でも最も困難な技術の一つであった。
今回の研究は、ブタの体外成熟・受精卵を超急速冷却してガラス化(固化)する急速冷却ガラス化保存技術の開発によって成功した。この技術は、高濃度の耐凍剤を含む液(ガラス化液)中に卵や胚を入れると急速に脱水され、細胞質の水分が耐凍剤と置換できることを利用した。低温にさらしても細胞質は凍る(氷の結晶をつくる)ことなくガラス化(固化)できるので、細胞への傷害を防ぐことができる。
今回、ブタの未成熟卵を体外成熟・体外受精により作製した受精卵を、一定の処理をした上で、アルミホイルを用いたガラス化法により超急速に冷却し、液体窒素中で保存した。そして、約1か月後に加温し、雌ブタに受精卵を移植した。その結果、移植後約60日で妊娠が確認され、その後5頭(雄3頭、雌2頭)の子ブタが生れた。超低温で保存した体外受精卵で、子ブタを誕生させた世界で最初の成功例となった。
この技術は、希少なブタの品種など遺伝資源の保存に大きく貢献するものと期待されている。
No.2007-30
2007年7月30日~2007年8月5日