高エネルギー加速器研究機構(KEK)と京都大学は4月24日、物質の質量の起源となる量子色力学(QCD=クオーク間の関係を色によって表現する理論)における自発的対称性の破れの現象を、厳密な計算機シミュレーションにより世界で初めて実証したと発表した。
陽子や中性子の構成要素である素粒子のクオークは、陽子や中性子の2%ほどの質量しか持っておらず、質量の残り98%は「カイラル対称性の自発的破れ」と呼ばれる現象によってもたらされていると考えられている。
カイラル対称性の自発的破れは、1961年に南部陽一郎博士(シカゴ大学名誉教授)が超伝導の理論にヒントを得て提唱したものだが、検証には膨大な計算が必要で非常に難しいため、この現象が起こる機構についてはこれまで理論的に解明されていなかった。
研究チームは今回、KEKに導入された国内最速クラスのスーパーコンピューターを使い、約半年間にわたってこれまで不可能とされた質量がゼロに近いクオークを含むシミュレーションを実行し、クオークの振る舞いを計算した。このシミュレーションでは、格子QCDでは理想的とされる「オーバーラップ・フェルミオン」と呼ばれる格子理論を用いたが、この理論での計算量は従来手法の100倍以上にもなるため、これまで大規模シミュレーションでは使用されていなかった。今回の厳密な計算機シミュレーションによる結果は、予言を非常によく再現しており、カイラル対称性の自発的破れを引き起こすことを実証した。
No.2007-17
2007年4月23日~2007年4月29日