強誘電体中の新たな量子現象が明らかに
―極低温下、小さい電界印可で強誘電ドメイン壁動く
:産業技術総合研究所/理化学研究所(2016年2月16日発表)

 (国)産業技術総合研究所は2月16日、(国)理化学研究所との共同研究で、極低温下における有機強誘電体の新たな挙動をとらえたと発表した。いろいろな新機能デバイスへの応用が期待されている強誘電体の物性解明に向け、重要な知見が得られたとしている。

 

■量子揺らぎによる軽量化など物性解明前進

 

 外部電界の極性の向きに応じて電気分極の向きを変える強誘電体は、圧電性、焦電性、非線形光学特性、メモリー特性などさまざまな機能性を持つ次世代の有望な素子材料。

 強誘電体には強誘電ドメイン壁と呼ばれる境界面があり、電気分極の方向の異なる領域が隔てられている。電界を加えると主に熱揺らぎによって強誘電ドメイン壁が動くが、熱揺らぎが失われる極低温下ではもう一つの揺らぎである量子揺らぎがあり、この量子揺らぎの存在下での強誘電ドメイン壁の挙動に関心が寄せられていた。

 研究グループは今回、有機強誘電体に加える圧力を制御することで、極低温下であっても大きな量子揺らぎが存在する状態を作り出した。その結果、比較的小さい電界の印加によって強誘電ドメイン壁を動かせることを見出した。

 さらに、量子揺らぎの下で動かした強誘電ドメイン壁の運動を解析、強誘電ドメイン壁の有効質量を算出したところ、重い有機分子で構成されているにもかかわらず、あたかも水素原子と同程度の軽さを持つような振る舞いが認められた。

 つまり、量子揺らぎが発散的に増大する量子臨界点近傍では、強誘電ドメイン壁は増大した量子揺らぎのために軽い有効質量を獲得し、電界によって動けるようになることが分かった。

 これらの発見は、量子揺らぎが強誘電ドメイン壁の運動に与える特異な一面をとらえたもので、強誘電体における量子効果の理解を深める成果という。

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