(国)宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月1日、国際宇宙ステーション(ISS)の日本の有人実験施設「きぼう」の船外で、新たに独自開発した線量計「Free-Space PADLES」を使い、宇宙放射線の計測を開始したと発表した。計測は、6月1日から約2週間行われる。「きぼう」船内に常設のPADLES線量計のデータと比較することで、船外活動する宇宙飛行士のリスクや、船壁の放射線遮蔽効果などを評価する。
■危険な宇宙線の飛行士への影響評価に必須
地球から約400kmのISSの周回軌道上では、太陽活動や銀河から飛来した宇宙放射線など、地上の数百倍に当たる強力な放射線が常時降り注いでいる。宇宙飛行士は常にこのリスクにさらされ続け、被ばく線量によっては搭乗日数も制限されることになる。このためJAXAは「きぼう」の船内に12個のPADLES線量計を設置し、2008年以来、船内での常時定点観測を続けてきた。
PADLES線量計は、JAXAが早稲田大学と日本大学らの協力で開発したもので、「固体飛跡検出器」と「熱蛍光線量計」の2つの素子からなり、アルミ製の断熱材シールバックで覆われている。新たなPADLES線量計は「きぼう」のロボットアームの先に取り付けられ、宇宙空間の高真空下で計測する。高真空下では正確な計測ができないため、長時間1気圧を保てるドーム型のアルミケース(直径6.4cm)を開発し、その中に密閉した。
このケースは、船外の真空に近い状態で測定し、同時に1気圧を保つという矛盾した条件を満たすために、ケース肉厚を極限まで薄くし、熱環境の変化にも耐えられるように工夫されている。今年4月15日にドラゴン補給船で米国ケープカナベラル空軍基地から打ち上げられた。終了後は地上で回収し、筑波宇宙センターに戻して詳しい線量解析をする。
ISSに長期滞在する日本人宇宙飛行士の個人被ばく線量計として被ばく管理に使われる。また将来の月面有人滞在ミッションを考慮するにあたって、ISSより強力な宇宙放射線にさらされる危険性があり、その遮蔽対策や宇宙服製作などの際の参考データにする。

打上げ前に地上モデルの親アーム先端取付型実験プラットフォームとのインターフェース確認をするFree-Space PADLES線量計(フライト品)(提供:JAXA)