(国)産業技術総合研究所と日本電信電話(株)は6月1日、タンパク質などの重い分子を100%の感度で検出する超電導分子検出器を開発したと発表した。従来は大規模で高価な冷凍機が必要だったが、新検出器は20ℓ(リットル)入りのポリタンク程度の小型冷凍機ですむため大幅な小型・省エネ化が可能で、幅広い産業応用が期待できるという。
■副作用少ない医薬品の開発などに寄与期待
医療・創薬分野などで広く使われる質量分析装置の分子検出器では、分子が衝突したときに検出器表面から飛び出る電子をとらえるのが一般的。しかし、タンパク質などの重い分子では電子がはじき出されず、検出できないという問題があった。
研究グループは、極低温に冷やした超電導体に分子が衝突したときに、衝突した微小領域の超電導状態が壊れて通常の電導状態になる現象を電気的にとらえて重い分子も検出できる超電導検出器に注目。新しい超電導体を使うことで省エネ・小型の実用性の高い技術の開発に取り組んだ。
超伝導体として39K(Kはケルビン・絶対温度、0Kは零下約273度)と、金属系の超電導体で最高の高い温度で超電導になる二ホウ化マグネシウム(MgB2)を採用、薄膜状に加工して50μm(マイクロメートル、1μは100万分の1m)角の超電導検出器を作成した。この検出器を市販の質量分析装置に組み込み、生体高分子である酵素「リゾチーム」の検出を試みた。
その結果、冷却温度13Kで1分子のリゾチームのほか、2分子のリゾチームが凝集した二量体を検出できた。検出器を冷やす冷凍機は、従来は0K近い極低温まで冷やす必要から大型のものが必要だったが、13Kで済むため大幅に小型化できた。冷凍機の消費電力は従来の25分の1以下、重量も5分の1以下にできた。
さらに、新しい超電導検出器の仕組みを理論的に解析したところ、検出器表面のどこに分子が衝突したかを1μmの精度で識別できる見通しも得た。このため、試料中の分子の位置と質量を同時に分析できるイメージング質量分析が実現できる可能性があるという。
このため、研究グループは「細胞内のタンパク質と医薬品の相互作用をより詳細に分析でき、副作用の少ない医薬品の開発などに役立つ」と期待している。4年後をめどに市販のイメージング質量分析装置に搭載できる検出器に仕上げる計画だ。