(国)物質・材料研究機構は6月3日、ナノ炭素材料のフラーレンを用い、再生医療向け細胞の培養に適した“足場”を作り出す技術を開発したと発表した。細胞の分化制御が可能な足場材料を容易に大面積化できることから、再生医療進展への大きな貢献が期待できるという。
■マウスの筋芽細胞の分化を誘導、筋管細胞の形成へ
再生医療用の生体組織を作り、その機能を発現させるには、細胞の分化を誘導・制御できる足場材料が欠かせない。近年の研究で、足場材料の表面にナノ(ナノは10億の1)からマイクロ(マイクロは100万分の1)メートルサイズの3次元パターンを形成すると、細胞分化を誘導・制御できることが分かり、パターン形成にLSI作製技術などの応用が試みられている。しかし、製法が煩雑だったりして足場の大面積化が難しいなどの問題があった。
研究グループはサッカーボール状のナノ炭素分子であるフラーレンが連なった柱状結晶、フラーレンウィスカーを用い、表面がパターン化された足場材料を、センチメートルスケールの大面積で作成することに成功した。
フラーレンウィスカーは疎水性が大きく、水面上に浮かべると単層の膜を形成できる。その膜を圧縮して一列に並べ、水面上に高精度に配向したフラーレンウィスカー膜を得た。これを基板上に転写し乾燥させ、幅約500nm(ナノメートル)の溝が規則的に並んだ構造の足場材料を作成した。
この足場材料を使って筋肉の元になるマウスの筋芽細胞を培養したところ、細胞の分化が誘導され一定の方向に揃って成長、筋芽細胞の分化と筋芽細胞同士の融合による筋管細胞の形成が認められたという。
作製したフラーレンウィスカー足場材料は大面積を必要とする生体外での組織再生に向くことから、今後は神経細胞や骨細胞などの分化誘導を試み、適用範囲を拡張したいとしている。

フラーレンウィスカー足場材料上での細胞挙動。aは、ガラス基板上とフラーレンウィスカー足場材料上で伸長した細胞の蛍光顕微鏡観察像。bは、フラーレンウィスカー足場材料上で形成した筋管細胞の蛍光顕微鏡鏡観察像で、(左)は、蛍光染色した筋管細胞、(右)は、その下にあるフラーレンウィスカー。足場材料の配向方向に沿って筋管細胞も斜めに配向している様子が分かる(提供:物質・材料研究機構)