(独)物質・材料研究機構は3月19日、東京工業大学と共同で鉄系高温超電導体のウイスカー(ヒゲ状の結晶)を作ることに成功したと発表した。
鉄系高温超電導体は、日本が開発した期待の超電導材料で、薄膜状やバルク(塊)状の結晶はすでに製造されているが、細い針のようなウイスカー状の合成は難しく、これまで作られていなかった。
長さを直径(太さ)で割った値をアスペクト比というが、合成に成功した鉄系高温超電導ウイスカーのアスペクト比は200以上に達し、脆くなく、強靭。絶対温度33K(マイナス240℃)で超電導状態になることを確認している。
今回の鉄系高温超電導体ウイスカーは、原料の金属ヒ化物粉末と金属粉末に結晶育成を促進する粉末添加剤を加え、その混合粉末をカプセル状のタンタル製反応容器に詰めて容器ごとプレスで圧縮、1,000℃の高温で48時間保持した後、おだやかな冷却速度で700℃以下になるまで徐冷することで得た。同機構では「冷却過程でウイスカー結晶が成長したと思われる」と見ている。得られるウイスカーは、長さ0.1~2mm、直径0.2~5μm(マイクロメートル、1μmは100万分の1m)の範囲に分布しているという。
銅酸化物系超電導体では、すでにウイスカーが製造されているが、脆いため用途が限られている。また、超電導を示すフラーレン(炭素原子がサッカーボール状に配列した炭素材料)のウイスカーも同機構の手で合成されているが、アスペクト比はまだ今回の鉄系超電導ウイスカーの20分の1以下の10程度に留まっている。
この鉄系高温超電導体ウイスカーは、金属製反応容器中での固相反応を主体とする反応で成長するため、「毒性を有する物質を含むにもかかわらず、安全性が保たれる」と同機構はいっている。
No.2012-12
2012年3月19日~2012年3月25日