幹細胞を利用した心臓再生医療の新手法を開発
:物質・材料研究機構/ローマ大学トルヴェルガータ校

 (独)物質・材料研究機構は11月24日、イタリアのローマ大学トルヴェルガータ校との共同研究で、幹細胞と細胞の培養を助ける人工の足場材料を利用し、新しい心臓再生医療の手法を開発することに成功したと発表した。
 心筋梗塞など治療が難しい疾患に対しては、幹細胞を有効に利用する治療方法を確立すれば患者への負担を大幅に軽減することができる。幹細胞とは、複数の系統に分化できる能力(多分化能)と細胞分裂を繰り返しても多分化能を維持できる能力(自己複製能)を合わせ持つ細胞のことをいう。
 幹細胞を利用する方法は、患者本人から採取し増殖させた幹細胞を使用することにより、臓器移植における大きな問題である免疫反応の影響を回避したり、あるいは低減できる可能性がある。しかし、幹細胞から心筋(心臓を構成する筋肉)の組織を生成し、損傷した心筋にパッチ(継ぎ当て)として移植する試みはこれまでに成功していない。
 再生医療(病気や怪我で失われた体の細胞や組織を再生する医療方法)は、最近の研究の進歩で、幹細胞や足場材料などを巧みに組み合わせることにより組織再生が可能になるとみられており、大きな期待が寄せられている。
 このうち人工の足場材料とは、組織が欠損した部位で、細胞が自分自身の細胞外マトリックス(細胞外基質:細胞の外に存在する超分子構造体)を作れるようになるまで、外部から供給する人工の細胞外マトリックスのことをいう。
 今回の研究では、規則的に並んだ大きさが50~100μm(マイクロメートル、1μmは100万分の1m)の正方形の細孔を持つ、厚さが5~15μmの高分子(ポリ乳酸)膜を3層に重ね合わせて足場材料とした。
 研究では、幹細胞と人工の足場材料を用いることによって、成体のネズミの心臓細胞になる前の心臓前駆細胞を、心臓と同じ硬さ(剛性)を持つ足場材料の上で培養し、数日間で機能的な収縮性を持つ完全に成熟した三次元の心臓構造を作ることが可能であることを初めて実証した。
 この研究成果は、特定の細胞をターゲットとし、一人一人の患者に合わせた足場材料を製造する道を開くもので、新しい患者治療法としての応用が期待される。

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足場材料の細孔上に伸びている心臓前駆細胞(写真中央)(提供:物質・材料研究機構)