筑波大学と日本大学は4月19日、物質を構成する基本要素のクォーク6個からなる「H-ダイバリオン」と名付けられた未知の粒子を大規模シミュレーションにより捉えることに成功したと発表した。H-ダイバリオンは、30年以上前に予言されながらいまだに見つかっていない粒子で、研究グループはスーパーコンピューターを用いた大規模な数値シミュレーションでその存在を裏付ける結果を得た。粒子加速器による実験でいずれ実物が見つかるのではないかとしている。
原子核を構成する陽子や中性子は、総称して「バリオン」と呼ばれ、バリオンは3個のクォークで構成されている。H-ダイバリオンは、「バリオン2つ分」という意味を持つ名称で、米国の物理学者ロバート・ヤッフェ博士が1977年に6つのクォークがコンパクトにまとまった粒子の可能性に気づき、その存在を予言した。しかし、長年の理論的研究や粒子加速器を用いた実験的探査にもかかわらず、現在までその存在は確認されていない。
筑波大学計算科学研究センターの青木慎也教授、日本大学の井上貴史助教、東京大学の初田哲男教授らの研究グループは、クォークの世界の大規模な数値シミュレーションに適した「格子ゲージ理論」をバリオン2個、すなわちクォーク6個の系に適用し、筑波大学計算科学センターのスーパーコンピューター「T2K-Tsukuba」を用いて演算を試みた。
クォークを支配する基本理論は、量子色力学(りょうしいろりきがく)とされる。格子ゲージ理論は、この量子色力学に伴う複雑な計算を可能にする方法として提唱された理論で、研究グループは格子ゲージ理論にクォーク6個の系を適用するに当たって計算上のさまざまな困難を打破する独自の工夫を加え、シミュレーションを実行した。
その結果、たとえば陽子と中性子ではバリオン同士に働く相互作用ポテンシャルが至近距離で右下がりになるのに対して、H-ダイバリオンのような系ではポテンシャルが距離によらず右上がりになるという結果を得た。至近距離での右下がりは、近づき過ぎると斥け合う力が働くことを示しているのに対して、距離によらず右上がりなのは「どんなに近づいても引き合う力が働く」ことを表しており、2つのバリオンが1つに融合している可能性を予想させるという。
また、得られた波動関数のグラフは、2つのバリオンが非常に狭い領域に集まって存在していることを示しているという。
これらの結果から、クォーク6個がコンパクトにまとまった粒子「H-ダイバリオン」が存在していることが明らかになったとしている。
H-ダイバリオンの今回の解明をきっかけに、天然には存在しない原子核の研究の進展をはじめ、中性子星の内部構造や超新星爆発など宇宙の物理現象に関する新たな知見の獲得などが期待されるという。
No.2011-16
2011年4月18日~2011年4月24日