[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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植物はストレスに反応して音を発する!!

(2023年5月01日)

植物は、ストレスを受けると、その形や色などが変化します。また、乾燥や食害にさらされたときなどには、揮発性の化合物を放出します。しかし、ストレスを受けた植物が空気音(空気中を伝わる振動)を発するかは、これまでにほとんど研究されてきませんでした。

 このほど、テルアビブ大学(イスラエル)などの研究グループは、ストレスを受けた植物が発する空気音を離れた場所から記録することに成功し、さらにそれらの音に基づいてストレスの種類が見分けられることを発見しました。

 この研究では、トマトとタバコの苗のそばに超音波マイクロホンを設置して、植物が空気音を発するかどうかを調べました。このとき、音を記録すると共に、植物体内の生理的状態の変化をモニターしました。

音を出す植物 この研究では、ストレスを受けた植物が発する空気音(超音波)を記録。機械学習により、それらの空気音から、植物の種類や受けたストレスの種類を判別することにも成功した。Cell (2023) 186 (7): 1328-1336. より引用。

 その結果、乾燥したトマトとタバコの苗では、それぞれ1時間に約35回と約11回の超音波を発していることが判明しました。茎を切り落としたトマトとタバコの苗からも同様に超音波が出ていましたが、十分な水で育てている植物や茎を切っていない植物からは、ほとんど音が検出されず、静かでした。なお、それらの植物の空気音は、人間には高すぎて聞こえませんが、多くの哺乳類や昆虫には3~5mの距離から聴きとれることもわかりました。

 さらに、植物の空気音から、植物の種類やストレスの状態を特定することにも成功しました。研究チームが作成した機械学習アルゴリズムにより、トマトとタバコの空気音の違いを見分けることができるだけでなく、乾燥している植物と水分が十分にある植物とを見分けることもできたのです。

 なお、一連の研究で、トマトとタバコに加えて、コムギ、トウモロコシ、ブドウ、サボテンなどからも空気音が記録されました。さらに、異なるグループの植物種を追加して調べることで、ストレスで空気音が出るということが植物に広く見られる現象なのかがわかるようになると期待されます。

 空気音が出る詳しいメカニズムはまだ不明ですが、研究グループでは水を運ぶ維管束の中に気泡ができたり、弾けたりすることが関係していると考えています。これらの植物が発する空気音は、助けを求めて「鳴き声」をあげているわけではないようですが、他の生物がその音を感知している可能性はあります。

 植物からの空気音を検出することは、農業の分野で植物の水不足などを監視する新しい方法につながる可能性があります。将来、畑や温室に設置したマイクが特定の音を拾い上げることで、農家は作物の状態を知ることができるようになるかもしれません。

 

【参考】

Khait I. et al. (2023) Sounds emitted by plants under stress are airborne and informative. Cell. 186 (7): 1328-1336. DOI: https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.03.009

保谷 彰彦 (ほや あきひこ)
文筆家、植物学者。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門は植物の進化や生態。主な著書に新刊『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共にあかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。
https://www.hoyatanpopo.com