[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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おうちで出来る楽しい理科実験 ~シュリーレン現象を手作り装置で観察しよう~

(2023年5月15日)

■水のなかで透明な液体が見えるのか?

 透明な水の中に透明な液体が流れた時、それが見えるだろうか? これはなかなか難しい問題である。「見えるはずがない!」というのももっともな答えだ。ともかく透明なものばかりだから、見えているのは背景である。でも、水に濃い砂糖水を加えた場合のように、光の通り方(具体的には屈折率で密度が関係している)が違うと、その背景の像に縞模様が現れてそれがゆらめいている。これをシュリーレン現象という。元になったドイツ語Schliereにも「斑(ムラ)」という意味がある。

 

■台所でやってみよう   

 この実験をしてみよう[注1]。図1と図2に以下で紹介する実験で得た像を示す。図1は赤色、図2は黄色の光で照らしている。

図1 透明な砂糖水が縞模様になって流れ落ちていく。
図2 黄色の光の場合。

■教科書

 シュリーレン現象は、小学校の教科書に出てくる。それは、砂糖を水に溶かして「ものの溶け方を見よう」という項目である。はじめに水と砂糖の質量を測っておき、次に、砂糖を水に溶かしても「全体の質量は変わらない」という、「質量保存の法則」として取りあげているものもある。それはそれで重要な考えであるが、物質がどこかへ消えない限り「あたりまえ」でもある。ここでは、この実験を光の性質と関連づけて、現象自体のしくみを考えてみよう。

 

■イベントのようす

 この実験は自ら作る満足感もある。図3は小学生向けの実験教室のようす。図4は大人も交えた科学イベント。大人も充分楽しんでいる。

図3 小学生実験教室。千葉市にて。
図4 親子の実験イベント。北九州市にて。

 

■装置全体と試料のアメ

 装置の全体を図5に示す。すべて手作りである。溶け方のようすも調べるのでアメ玉の形はいろいろなものを用意する。アメ玉には色がついていても良いが、透明なものの方が実験の上述の趣旨には合う。

図5 装置にアメ玉をセッティングしたところ。右下の挿入図はアメ玉の縛り方。

■装置を作る

 家庭にある文具、台所用品、洗濯用品を活用する。まず、スクリーンの製作である。厚手の画用紙B4サイズを使う。ここへ図6の設計図に従って、切れ目を入れて折り込んで図7のように立てる。これはたたむとA4程度になって持ち運びにも便利だ。

図6 スクリーンを作る方法。 B4画用紙を使う。
図7 出来上がった手作りスクリーン。

 次に、水を入れた透明な容器を置く。
ライトをセットする。図8のように、発光ダイオード[注2]をボタン電池[注3]に挟んで光らせる。スイッチ、ソケット類は使用しない。図9のように、木製またはプラスチック製の洗濯バサミでとめる。金属製の洗濯バサミは絶対に使用しない [注4]。光の方向も洗濯バサミで調整する。これは、微調整が出来るように組み立てる必要がある。高価な光学実験用の「マウント」も市販されているが、ここでは洗濯バサミを多種類用意して、代用する。

図8 LEDは電池にはさむだけ。

 スクリーンに対して容器の位置、ライトの位置および(傾きの)向きを、図9に示したように調整する。

図9 ライトのセッティング。

■試料のアメのセット

 ここから観察だ。図5右下のように、アメ玉を「ねじりっこ」(鉄線入りビニールひも)で縛り、割り箸につるす。割り箸をコップのフチに置き、アメ玉の先端を図10のように水に浸していく。これで図5の状態になる。すると、既に図1、図2に示したようにアメ玉から溶けた砂糖水が下へ流れるのが観察できる。特に部屋を暗くすると像が美しく映える。

図10 アメ玉を水に浸してスクリーンにその下端あたりの像を映す。

■容器の形

 今まで、特に容器の形について触れなかった。まずは、図5のように四角いもの[注5]で実験した方が、レンズ効果が現れないので、図1、図2のように出来た像の解析がラクである。
 しかし、図9、図10のように、円筒形(コップ)の容器を使うとレンズ効果が加わる。光学としてのテーマが加わる[注6]。それは像を大きくしたり小さくしたりして調整箇所が増えて難しくなるが、息を飲むような美しい像になることもある。

 

■つるしたアメ玉の下部がどんどん溶ける理由

 ところで、なぜ水の上部にあるアメ玉(砂糖)はどんどん溶けていくのだろう[注7]。実際、アメ玉を容器の底に落としてしまうと、もうそんなに速くは溶けないことがわかる。
 まわりが純粋な水であれば、溶けだす速さはどの部分でも同じはずである。しかし、少し溶けだすと、溶けだした部分は、速さが小さくなる。一方、水の上部にアメ玉があると、その下の部分に生じた溶けた重い液体は下へ落ちて行くため、純粋な水が入り込んでくる。そこに接する部分では、溶け出しが速いわけである。アメ玉の下部はどんどん溶けていくことになる。
このようにさらに探究を発展させるいろいろなテーマがある。液体・溶液の研究は奥が深い[注6,8]。

 

 

【注と参考文献】

[注1] 夏目雄平“アメ玉でシュリーレン現象~スクリーンも照明具系も自作しよう~”「理科の探検」(SAMA企画)2018年12月号(通巻35号)p.38

[注2] LEDは赤、黄色などで発光角度(先頭角)が15度のものが良い。一万mcd以上のものを使う。白色はまぶしく感じて観察しにくい。単色の方が良い。なお、足の長い方が+である。私が使ったのはRoHS LED LAMPS 2.0-2.6Voltで、赤色がPEI70001, 75000mcd、黄色がPEH20001.50000mcd.
[注3] 私が使ったのはCR2032.

[注4] 金属は電池をショートさせるので避ける。

[注5]透明な四角い容器は、台所にある食器には少ないが、100円ショップにある。また、文具の筆立てとしても売られている。

[注6] 夏目雄平「やさしく物理~力・熱・電気・光・波」(朝倉書店)。中学生~大学院生、文系社会人など幅広い読者を持ち、増刷となった。

[注7] これは北九州市のイベントで小学1年生に質問されて気がついた。

[注8] マーク・ミオードヴニク「液体」邦訳;松井信彦(インターシフト)。原著Mark Miodownik, ”Liquid”(Penguin Books) は空港の売店でも売っているようなpaper backだが、掘り下げた記述に驚く。

夏目 雄平(なつめ ゆうへい)

 千葉大学名誉教授・グランドフェロー(国際教育センター)。固体物性物理学専攻。最近の著書に「やさしく物理」(朝倉書店)、「やさしい化学物理~化学と物理の境界をめぐる」 (朝倉書店)など。 「理科の探検」 (SAMA 企画)編集委員など。文系の著書に「小さい駅の小さな旅案内」 (洋泉社新書)など。各地でサイエンスイベントを行っている。NHK-TV「世界オモシロ学者のスゴ動画祭」に出演。
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