[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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光触媒でイヌ、ネコ由来のアレルギー物質を分解できることを確認

(2023年9月15日)

 多くの家庭でイヌ、ネコが飼われるようになっていますが、飼い始めたら家族にイヌやネコに対するアレルギーを持つ者がいることが発覚。飼い続けることが難しくなり、保健所に相談して殺傷処分されるケースも少なくはありません。せっかく家族の一員として迎え入れたにもかかわらず、アレルギーが原因で飼えなくなるのは飼い主にとっては望むことではないでしょう。

 過去の研究でイヌやネコのアレルギー物質(アレルゲン)として、イヌ由来のタンパク質7種、ネコ由来のタンパク質8種が特定されています。これらのタンパク質はイヌやネコの毛、皮膚、唾液、尿に含まれていて、室内のカーペットや調度品に付着するほか、微粒子となって空気中に漂い、飼い主にアレルギー症状を引き起こします。

 定期的にペットの体を洗い、小まめに部屋を掃除することで、家庭内のアレルゲンを減らすことができますが、完全に除去することは困難です。そこで東京大学、カルテック株式会社、犬山動物総合医療センターの研究グループは光触媒によってイヌ、ネコから出るアレルゲンを分解できるかどうかを確かめる研究に取り組みました。

 光触媒は太陽光や電灯の光を吸収して化学反応を促す物質の総称で、汚れや有害な微生物を分解できることから、代表的な光触媒の酸化チタンが盛んに外壁塗料などに利用されています。この酸化チタンに注目した研究グループは、イヌ、ネコ由来のアレルゲンを分解できるかどうかを確かめる実験を行いました。

 酸化チタンを塗布したガラス板に、イヌやネコの皮屑抽出液を垂らし、波長405ナノメートルの可視光を照射してアレルゲンのタンパク質がどの程度分解されるかを調べました。その結果、時間とともに分解が進み、24時間後にはイヌ由来の原因タンパク質(Can f1)、ネコ由来の原因タンパク質(Fel d1)のほとんどを分解できることが確かめられました。

 アレルゲンは微粒子となって空気中を漂うことで、飼い主にアレルギー反応を引き起こすことから、研究グループは抽出液だけでなく、乾燥状態のアレルゲンを分解できるかを調べる実験も実施。ネコ由来のFel d1の分解は最大7割弱にとどまりましたが、イヌ由来のCan f1は90%以上を分解できました。さらに分解されたタンパク質がアレルギーを引き起こす抗体に結合するかどうかを調べて、アレルギーを引き起こす性質(アレルゲン性)が失われていることも分かりました(図)

酸化チタンの光触媒反応により、イヌ由来のアレルゲン(Can f1)のほとんどを分解できることが確認されました。ネコ由来のアレルゲンについても同じように分解できており、光触媒を取り入れることでペットを飼うことによるアレルギーのリスクを大幅に軽減できると期待されます。 (画像提供:東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部)

 

 酸化チタンは人間にも、ペットにも害のない安全な物質であるとされ、これまでにも空気清浄機に取り入れられてきました。今回、酸化チタンの光触媒反応でイヌ、ネコ由来のアレルゲンのほとんどを分解できることが確かめされ、より一層、積極的に酸化チタンを取り入れていけば、人間とペットがともに安心して暮らせる環境づくりが進むことでしょう。

 

【参考】

・東京大学プレスリリース

犬・猫との共生を阻む社会課題の大きな原因、 動物アレルギーを克服する新しい一歩 ―光触媒で溶液と乾燥状態のイヌアレルゲンとネコアレルゲンの分解に成功―

斉藤 勝司(さいとう かつじ)

サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。