[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

わかる科学

2色覚の人も豊かな色彩を認知している

(2023年10月01日)

 人の眼は波長800nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)くらいの赤い色から360nm前後の紫色までの光を感じることができます。しかし可視光全域に渡って同じ感度で見ているわけではありません。人の網膜(もうまく)にある錐体(すいたい)細胞には赤・緑・青に感度のピークを持つ、L錐体(長波長感受性)・M錐体(中波長感受性)・S錐体(短波長感受性)の3種類があり、まさにコンピューターと同じように光の3原色の組み合わせで色を見ています。

 コンピューターで異なる色を表示する場合は、この3原色のそれぞれの色の明るさを変えるだけですが、人の場合は脳によって情報処理が行われています。そのため、実際はどのように色を認知しているのかはよくわかっていませんでした。

 ちなみに網膜には錐体細胞の他に、桿体(かんたい)細胞というものもあり、こちらは色は感じませんが感度が優れているため暗所視で活躍します。

 

 人は3種類の色で見る3色覚(しきかく)ですが、数%の割合で赤と緑の区別がつきにくいなどの2色覚の人がいます。これはほとんどが先天的なもので、赤ちゃんの頃から2色覚で育っているため、それに応じて脳の機能が発達するので、生活するためには全く支障がありません。ただ2色覚の人が絵画などの芸術作品を見た場合、どのような色彩イメージを持つのかがよく分かっていませんでした。

3種類の錐体細胞の感度特性から2色覚・3色覚となる ©たつひこ

 

 九州大学大学院芸術工学研究院の平松 千尋准教授・高嶋 龍彦芸術工学部学生(研究時)らの研究グループは、絵画を見た時の注目ポイントと色彩の感じ方を調べるため、絵画を30秒間見たときの視線の動きを測定しました。同時に絵画の印象について、あらかじめ用意した23種類の形容詞で表現してもらいました。

 

 3色覚と2色覚の被験者58人を集め、3色覚の人のうち半数にはデジタル編集した2色覚の画像を見てもらいました。使用したのは、18世紀後半から20世紀初頭の歴史的に重要な絵画24枚で様々な色彩空間を持つものです。

 実験の結果、3色覚の人が2色覚に加工された絵を見た場合は、色彩が足りないという印象を持ちました。また、2色覚と3色覚の人では最初の5秒間に視線の動きの違いがありました。3色覚の人はみな同じような視線の動きを示したのに対して、2色覚の人は個人ごとに比較的異なる動きをしていたのです。赤と緑の色情報は視線を集めますが、これらの色情報が得られない場合は、視線は個人個人で異なってくるのではないかと、研究者は考えています。

 しかし、なぜこうなっているのかについてはまだ分かっていないといいます。色覚が違っても色彩は脳で情報処理を行うため経験による情報で補正され、感覚的には3色覚の人と同じように豊かな色彩を見ているのではないかと推測しています。

 研究グループは、人の脳が色彩の印象を認知するメカニズムを更に掘り下げたいと言います。

 

【参考】

■九州大学プレスリリース

色覚の違いが絵画の見方や印象に与える影響の実証

サイエンスライター・白鳥 敬(しらとり けい)
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。