[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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皮膚が光って健康状態を知らせる「リビングセンサーディスプレイ」

(2026年3月01日)

 病気になると皮膚が光って、一目でどんな病気かわかるといいな、というSFのような発想が、実現に一歩近づきました。

 体内の炎症物質に反応して、皮膚表面近くにある表皮幹細胞が蛍光を発する「リビングセンサーディスプレイ」という技術が開発されたのです。医療の現場では、さまざまな病気や体の変調を知るために、それぞれの疾患に対応した炎症物質の量が測定されますが、現在は血液中の物質(バイオマーカー)を調べているため、採血が必要であり手間と時間がかかります。

 このたび、炎症物質によって蛍光を発する「表皮幹細胞」を人工的に培養し、マウスの皮膚に移植することで、体内の炎症物質の変化を蛍光の強さとして外部から見えるようにする技術が開発されました。

 開発したのは、東京都市大学の 藤田 博之 特別教授(東京大学名誉教授)、東京大学 生産技術研究所 竹内 昌治 特任教授(本務:同大学大学院情報理工学系研究科 教授)、澤山 淳 特任助教(研究当時)、理化学研究所 生命機能科学研究センター(BDR)の 辻 孝 チームリーダー(研究当時)、キヤノンメディカルシステムズ株式会社 先端研究所 矢野 亨治 研究員らの研究グループです。

 研究グループは、炎症を示す信号物質が体内に放出されると、それに反応して蛍光を発する人工皮膚を作りました。炎症信号に応じて活性化する遺伝子経路(生体シグナルを伝達する経路)に緑色蛍光タンパク質(EGFP)遺伝子を組み込んだ表皮幹細胞を作り、これを培養して新たな皮膚を育てました。この培養皮膚をマウスに移植することによって、炎症の状態に応じて蛍光の強度が変化することを確認しました。この技術では表皮幹細胞そのものをセンサーとして利用することで、新陳代謝によって人工皮膚を長期間維持することが可能となり、体内の情報を直接、連続的に測定し表示できます。

 この技術の人への適用は、安全性・倫理性の面から、解決すべき課題が多いため、実用化するためには、さらに研究を続ける必要があるといいます。しかし、高齢者の在宅健康管理、糖尿病などの慢性疾患の経過観察などに役立つほか、言葉を使えない家畜・ペットの健康管理にも適用できるのではないかと考えられています。

図1 皮膚で健康状態を検知する「リビングセンサーディスプレイ」の概略図
(提供: 藤田博之・東京都市大特別教授、竹内昌治・東京大教授) )

 

【参考】

■東京大学プレスリリース
皮膚が光って健康状態をお知らせ-表皮幹細胞を用いた生体バイオマーカーの連続的監視-

 

サイエンスライター・白鳥 敬(しらとり けい)
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。