ゲノム編集を用いて高糖度、高GABA、高ビタミンCのトマトを実現
(2026年1月15日)
消費者が農産物を選ぶ際、美味しさに加えて、健康増進に寄与する機能性成分を豊富に含むかどうかも重視されるようになっています。そのため機能性成分が多くなるように品種改良が取り組まれていますが、既存品種の掛け合わせによる伝統的な品種改良では、美味しさと健康増進機能という複数の特長を併せ持つ品種を開発することは簡単なことではありませんでした。
しかし、クリスパー/キャス9に代表されるゲノム編集は、狙った遺伝子を精度よく改変できることから、近年、農作物の品種改良に取り入れられるようになっています。筑波大学生命環境系の研究グループは過去、ゲノム編集を用いて神経伝達物質として働くアミノ酸で、血圧を低下させる作用やリラックス効果を持つことで知られるγ-アミノ酸(GABA)を多く含むトマトを実現していました。そして高GABAに加えて糖度の高く甘いトマトの開発を目指しました。
そこで研究グループはゲノム編集で改変する標的にGABAの蓄積に関わるGAD3遺伝子とともに、ESK遺伝子を選びました。ESK遺伝子は研究で用いられることの多いシロイヌナズナでは、葉への糖の蓄積や、低温にさらされることによるストレスに対する耐性に関わることが知られていましたが、他の植物ではどのような機能を示すかは分かっていませんでした。
実際にGAD3遺伝子、ESK遺伝子をゲノム編集で改変したトマト(Line1、Line2)を詳しく分析したところ、糖度(Brix値)は遺伝子を改変していない野生型が4.3だったのに対し、改変されたトマトは7.9となりました。GABAの含有量については野生型に比べて改変トマトは約5倍に増加していました。その一方でトマトの大きさは野生型の半分ほどに小さくなり、その原因については遺伝子改変によって根から吸収した水、養分を運ぶ師管の形成に異常が生じたためだと考えられています(図1)。

こうした変化が起こったメカニズムを分子レベルで解析したところ、糖の分解に関わる酵素が増えつつ、アスコルビン酸(ビタミンC)の再生に関わる酵素の遺伝子の発現が上昇していることが判明。野生型に比べて改変トマトのビタミンC濃度は約1.5倍に増えることが確認されました(図2)。

今回、高糖度、高GABA、高ビタミンCという特長を併せ持つトマトが開発されましたが、いくら高機能でも、果実が小さくなった以上、収穫量の減少が心配されます。そのため今後、トマトの高機能化しつつ、収量を維持していくための研究が課題になると考えられています。
【参考】
■筑波大学プレスリリース
ゲノム編集により⾼糖度・⾼ GABA・⾼ビタミンC のトマトを作出
■Scientific Reportsに掲載された論文の抄録
Enhancing tomato quality, high sugar content and GABA accumulation, with mutations in ESKs and GAD3 genes.

斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。

