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水電気分解用に低コスト卑金属電極―新技術で耐食性を実現:筑波大学ほか

(2018年6月20日発表)

 筑波大学と大阪大学は620日、次世代エネルギー源の水素を電気分解で作るための新型電極を開発したと発表した。従来の白金電極に代わり、大幅な低コスト化が可能な卑金属のニッケルモリブデン合金を使い、その表面を炭素の単原子膜「グラフェン」35層分で覆うことで電気分解に必要な酸性条件下でも腐食しにくくした。実用レベルの性能を1週間維持できることも実験で確認した。

 筑波大の伊藤良一准教授が、阪大の大戸達彦助教らと協力して開発した。新型電極は従来の白金電極の100分の1のコストで作成でき、これまでの卑金属電極と比べて腐食しにくく圧倒的な寿命を持つとして、水の電気分解装置の水素発生電極への応用が期待できると研究チームは言っている。

 開発した卑金属電極は、ナノメートル(1nm10億分の1m)単位の微細な孔が無数にあいたスポンジ状の3次元多孔質構造を持つ炭素分子の上に、ニッケルモリブデン粒子を固定。さらにその表面をグラフェン膜110層で覆ったものを作り、酸性条件下で水の電気分解の電極として使用した際に、単原子層膜の厚さによって耐久性などがどう異なるかを調べた。

 0.5MMは酸性の程度を示す指標)という強酸性の硫酸水溶液中で水素を発生させる電気分解実験をしたところ、35層のグラフェン膜で覆った新開発の卑金属電極は1,000回にわたって電気のオンオフを繰り返しても95%の性能を維持した。しかし12層のものは、最初は優れた性能を示したが、繰り返し使用すると中の卑金属が溶けだして電流密度の減少など劣化が急速に進んだ。

 研究チームは「グラフェン膜の層数が卑金属の腐食と電極性能を決定づけていることが示唆された」として、卑金属電極の寿命と性能を両立するための指針を得ることができたとみている。今後、企業と連携して水の電気分解だけでなく、固体触媒や燃料電池などの先端材料としての実用化を目指す。