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赤ちゃんがかかる新生児黄疸の原因となる反応機構解明―謎を分子・原子レベルで解く、黄疸の治療薬開発の手掛かりに:宮崎大学/久留米大学/農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2017年2月7日発表)

 宮崎大学、久留米大学、(国)農業・食品産業技術総合研究機構、大阪大学、久留米工業高等専門学校、埼玉大学は2月7日、共同で生まれたばかりの赤ちゃんがかかる新生児黄疸の原因となる生体内の反応機構を解明したと発表した。50年以上に亘る謎をX線結晶構造解析法を使って分子・原子レベルで解明することに成功したもので、世界初の成果と研究チームはいっており、有効な薬がない黄疸の治療薬開発の手掛かりになることが期待される。

 生まれたばかりの赤ちゃんは、皮膚などの色が黄色になることがある。これが新生児黄疸で、一般的には時間が経つにつれて次第に治っていく。

 黄色を示すのは、酸素を運ぶ主成分として知られる血液中のヘムが、ビリベルジン還元酵素と呼ばれるたんぱく質の働きでビリベルジンを経てビリルビンに変換されるからだ。ヘムは赤色、ビリベルジンは青色、ビリルビンは黄色のそれぞれ色素。打撲によってできた痣(あざ)が赤色→青色→黄色に変化しながら治っていくのはそのためとされている。

 ビリルビンは、通常は優れた抗酸化作用を発揮するが、血液分解が盛んな新生児の血中に過剰に存在すると排出が間に合わなくなり場合によっては重度の黄疸を引き起こしてしまう。軽度の黄疸には、光を当てる光照射治療という方法でビリルビンを体外に排出して治す方法があるが、重度になると有効な治療薬がなく、血液の全交換が必要になる。

 しかし、ビリベルジン還元酵素は50年以上も前に発見されているにもかかわらず、新生児黄疸の色の元である黄色色素ビリルビンができる反応がどのような機構で進むのかはまだ分かっておらず、さまざまな手法による研究が国内外で行われている。

 研究チームは、ビリベルジン還元酵素がどのようにビリベルジンを取り込み、どのような仕組みでビリルビンに変換するのかを、播磨科学公園都市(兵庫県)にある大型放射光施設「SPring₋8(スプリングエイト)」を使いX線結晶構造解析法により分子・原子レベルで調べた。

 X線結晶構造解析法は、たんぱく質の立体構造を分子・原子レベルで可視化することができるが、この手法による解析の結果、ビリベルジン還元酵素が二つのビリベルジンを同時に取り込み、片方がもう一方をビリルビンに変換する触媒として機能しているという全く予想していなかった反応であることが分かった。「このような機構の生体内反応は前例がなく、世界でも初めての発見」と研究チームはいっている。