粘菌の「走化性運動」を制御する物質を発見
:筑波大学/群馬大学

 筑波大学は8月15日、群馬大学との共同研究で、粘菌の「走化性運動」を制御する物質を発見したと発表した。
 走化性運動とは、細胞がある特定の物質に向かって効率よく移動する現象で、人間を含めた多くの生物種の細胞の重要な基本機能の一つ。走化性運動によって、効率よくエサを見つけたり、敵から逃げたりする生物もいる。人間の体の免疫細胞は、この運動によって「侵入者」を追尾し、撃退している。このため、走化性運動のメカニズムの解明により、その運動が関与する様々な現象を人為的にコントロールできると考えられているが、そのメカニズムの詳細は未だ分かっていない。
 粘菌は、カビによく似た子実体(柄(え)と胞子からなる塊)を形成する土壌微生物で、細胞生物学・発生学のモデルとして、走化性運動のメカニズム解析にも利用されている。
 胞子から発芽した粘菌の細胞は、単細胞アメーバとして周囲のバクテリアを食べて増殖する。エサがなくなるとそれがシグナルとなり、中心部の細胞が分泌する「cAMP(環状アデノシンリン酸)」という物質に対する走化性運動によって細胞は集合し、10万個ほどの細胞からなる多細胞体を作り、子実体を形成する。
 今回の研究では、いろいろな実験で「DIF-1」と「DIF-2」という物質が、粘菌の「走化性制御物質」であることが明らかになった。DIF-1とDIF-2は、20年あまり前に粘菌の柄細胞分化誘導因子として発見された低分子化合物だが、これまで分化誘導以外の生理機能は知られていなかった。
 粘菌の細胞(アメーバ)は、cAMPに向かって走化性運動を示すが、今回DIF-1の存在下では走化性運動が抑制(阻害)され、DIF-2の存在下では逆に走化性運動は促進されることが分かった。このDIF-1とDIF-2の新しい機能は、細胞分化誘導とは異なるメカニズムによること、さらにはDIF-1とDIF-2が細胞内のcGMP(環状グアノシンリン酸)濃度を調節することによって走化性運動を制御していることも示された。走化性運動を正・負に制御する天然物質の発見は、世界で初めて。
 研究グループは、今後さらにDIFの作用メカニズムの解明を進めると共に、走化性運動を制御する薬剤の開発の可能性を探ることにしている。
 この研究成果は、米国のオンライン科学誌「プロス・ワン」に掲載された。