(独)産業技術総合研究所は、データベースに存在する各種生物の「ミトコンドリアβ型外膜タンパク質」の遺伝子配列を解析した結果、これまで100種類以上と考えられていた外膜タンパク質がわずか6種類程度しか存在しないことを突き止めたと、このほど発表した。
ミトコンドリアは、動物や植物、酵母など真核生物の細胞に含まれる細胞内小器官で、二重の膜に包まれている。ミトコンドリアの異常は、がんや糖尿病などの疾患を引き起こし、これらの病気の根本原因解明にも重要な関わりを持っている。
ミトコンドリアは、生化学的、分子生物学的性質において、バクテリアとの類似点が多いことから、ミトコンドリアとバクテリアの持つタンパク質の全体像もよく似ていると考えられてきた。特にβ型外膜タンパク質と呼ばれる外膜に存在するタンパク質は、バクテリア同様に100種類以上存在すると予想されていたが、β型外膜タンパク質を調べる実験は極めて難しく、これまでに確認されたのは5種類にすぎない。しかし、近年の研究で、コンピューターを使って未知のミトコンドリアβ型外膜タンパク質を探索することが可能になった。
同研究所では、これまで確認されているミトコンドリアβ型外膜タンパク質5種類に、βシグナルという共通の特徴があることを見つけた。この特徴をもとに、データベース上に存在する(現在知られている)全てのミトコンドリアのタンパク質(9000個以上)のアミノ酸配列を対象に、新しいミトコンドリアβ型外膜タンパク質の探索を行った。その結果、新しい6番目のミトコンドリアβ型外膜タンパク質の候補として「Uth1」を発見した。Uth1は、現在実験的に確認中。
同研究所では、今回の研究で、全てのミトコンドリアのタンパク質について、網羅的な探索を行ったにもかかわらず、ミトコンドリアβ型外膜タンパク質の新規候補が一つしか見つからなかったことは、実際に存在するのは6種類程度にすぎないことを示すものだとしている。また、これまでの予想と大きく異なったことから、ミトコンドリアのタンパク質の全体像も見直す必要性があると指摘している。
この研究成果は、2008年12月26日発行の米国の科学誌「Cell」に掲載された。
No.2009-1
2009年1月5日~2009年1月11日