高エネルギー加速器研究機構は1月16日、米ハワイ大学、(独)産業技術総合研究所のグループと共同で、水素吸蔵物質の水素化アルミニウム・ナトリウムに、チタンなどを加えると水素を放出しやすくなる原因を解明、従来は全く考慮されていなかった「水素結合」の存在と、それが水素の吸収・放出に大きな効果を及ぼすことを世界で初めて明らかにしたと発表した。
水素化アルミニウム・ナトリウムは、軽元素の水素化物の代表である水素化アルミニウム化合物の一つで、自重の5.6%もの水素を吸収・放出する(理論値)ことから安価で大量に手に入る水素吸蔵材料として期待されている。1990年代後半には、数%の割合でチタンやジルコニウムなどの金属を添加すると、ネックだった水素の吸収・放出の速度が劇的に改善されることが明らかになった。
しかし、長年の研究にも関わらず、添加された金属が水素の吸収や放出にどう関わっているかという、微視的なメカニズムはほとんど分っていなかった。
実験では、試料として無添加とチタンを2%添加した水素化アルミニウム・ナトリウムをハワイ大学で用意。同機構のミュオン科学実験施設で「ミュオンスピン回転測定」と呼ばれるテスト実験をし、カナダ、スイスのミュオン実験施設でも本格的な実験を行った。
ミュオンスピン回転法は、正電荷をもつミュオン(素粒子の一種、ミュー粒子ともいう)が物質中でほぼ水素(陽子)と同じように振る舞うことから、加速器施設で大量に発生させたミュオンをイオンビームとして物質に照射し、内部を調べるという方法。その結果、どちらの試料も注入したミュオンが、室温以下で水素化アルミニウムイオンとミュオンとの「水素結合」による複合体を形成していることが明瞭に観測された。
No.2008-2
2008年1月14日~2008年1月20日