(国)国立環境研究所は6月2日、放射線に敏感な器官である精巣を対象に、福島第一原原発事故の放射線の影響を調査した結果を公表した。放射線量の高い福島県内と福島第一原発から遠く離れた青森県及び富山県内で捕獲した野ネズミ(アカネズミ)の精巣・精子を比較したところ、生殖細胞の細胞死の頻度と精子奇形の発生率に有意な差は認められなかった。調査時の放射線量では精子形成に支障が及ばないことが示されたとしている。
この調査は環境研と北里大学、富山大学が共同で実施した。
2013年と14年の7~9月頃に、空間線量率の異なる福島県内の2地点と、福島第一原発から300キロ以上離れた青森県、富山県の各1地点、計4地点から合計97匹の繁殖期の雄のアカネズミを捕獲し、捕獲地の地表面の空間線量率、表層土壌とアカネズミ体内の放射性セシウム濃度、精巣・精子への放射線影響の有無などを調べた。
精巣・精子の調査では、精子の形態の顕微鏡観察、生殖細胞の細胞死の検出、細胞死頻度の評価、精子が形成される精細管の断面径の計測を行った。
その結果、福島県内で捕獲されたアカネズミは土壌からの外部被ばくだけではなく、体内に取り込んだ放射性セシウムからも高いレベルの被ばくを受けていることが示された。
しかし、汚染・非汚染地域間で生殖細胞における細胞死の頻度と精子奇形の発生率に関して統計学的に有意な差は認められなかった。したがって、放射線が原因となる雄の繁殖能力低下によって福島県のアカネズミの個体数が減少することはないと考えられるという。
今後は福島県内のアカネズミのDNAに、放射線による塩基配列の変化が起きているかどうかなどを把握したいとしている。