東京大学、名古屋大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)などの研究グループは6月3日、環境負荷の少ない水素エネルギー生産法として期待される太陽光による水分解の高効率化に成功したと発表した。酸化物薄膜の中にナノメートル単位の微細柱状構造の金属を無数に埋め込んだ結晶を開発、光触媒電極にすることで水の分解効率を著しく高めた。複雑な工程なしに結晶を作ることができ、水素生産の低コスト化も期待できるという。
研究グループには東大、高エネ研のほか名古屋大学、東京理科大学も参加、これまで光触媒による水分解法実用化の障害となっていた低効率・高コストという問題点の解決に取り組んだ。
光触媒電極の表面で起きる水の分解反応を向上させるために作製したのは、酸化物の薄膜に直径5ナノメートル、高さ20ナノメートルの柱状構造の金属を無数に埋め込んだナノコンポジット結晶。酸化物薄膜の表面にはたくさんの柱状構造の金属が頭を出した形になっている。
金属と酸化物の境界面は正負の電荷を効率よく分離させる機能を持つ「ショットキー接合」として働く。ナノコンポジット結晶に太陽光が照射されると酸化物内では正の電荷(ホール)と負の電荷(電子)のペアが発生するが、正の電荷は柱状金属を通って薄膜表面の頭部分に集まり水分子を効率よく分解する仕組み。
実験では、薄膜の主成分にチタン酸ストロンチウム、柱状構造のイリジウム金属を用いた場合が特に高い分解効率を示したという。また、ナノコンポジット結晶は水の中で電極として使用しても、長時間にわたって安定で耐久性に問題はないという。
作製に当たっては、結晶成長の温度や酸素圧、成長スピードを最適化することで、金属原子が自分の力で集まって柱状構造を作る自己集積化現象を利用した。単純なプロセスで高品質結晶が作製できるため低コスト化が可能とみており、研究グループは「二酸化炭素を排出しない水素社会実現に近づける」と期待している。