筑波大学は5月24日、レーザーのパルス光をガラスに照射した時のパルス光からガラス中の電子へのエネルギーの移行を10の18乗分の1秒(アト秒)という時間精度で測定したと発表した。
光で駆動する未来のエレクトロニクスの実現に向けドイツのマックス・プランク量子光学研究所、同ルードビッヒ・マクシミリアン大学と共同で行った研究の成果。
光を物質に照射した時に非常に短い時間で起こる光から電子へのエネルギーの移行のメカニズムをアト秒技術を用いて原子スケールで調べることに成功した。
現在のエレクトロニクスで情報の保存・処理・転送を担っているのは、半導体の中の電子。最新のエレクトロニクス回路では、1秒間に最大で数十億回のスイッチ動作を行うことができるところまできている。光により電子の駆動が行なえるようになれば、それより遥かに高速のスイッチが可能になる。
光は、電磁波(電気と磁気の両方の性質を持つ波)としての性質を持ち、1秒間に1,000兆回も向きが変わり、固体に照射すると物質中の電子を光と同じサイクルで駆動することが可能になると見られている。このため、光による電子の駆動をスイッチに使う素子が未来のエレクトロニクス技術の基盤になるものと期待されている。
マックス・プランク量子光学研究所とルードビッヒ・マクシミリアン大学のアト秒研究チームは、これまでの研究で、光を用いて物質中の電子を光の振動数で操作することが可能であることを示しており、筑波大は光を照射した固体中の電子の運動を原子のレベルで精密に調べられるシミュレーション法を開発している。
今回の研究では、極めて強い数フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)のレ-ザーパルス光をガラスに照射した。このパルス光で電子は、左右に1回だけ強く揺すられ、ガラス板を通過した後の波形を精密に測定することで、光の照射によってガラス中に生じる極めて高速の電子の運動をアト秒の時間精度で観測することに初めて成功した。
光で電子を駆動する未来のエレクトロニクスを実現するには、パルス光が通り過ぎた後に物質中に残されるエネルギーを十分に小さくすることが必要だが、今回の測定手段を使えば光を用いた超高速素子に適した光と物質の組み合わせを調べることが可能になると筑波大はいっている。