高機能材料実現に強力な手段
―ヤヌスキューブの新合成法開発
:群馬大学/産業技術総合研究所(2016年5月27日発表)

 群馬大学と(国)産業技術総合研究所は5月27日、高機能材料の原料として注目される物質「ヤヌスキューブ」の新しい合成法を開発したと発表した。従来の合成法では不純物の分離が困難だったが、新技術では収率を大幅に向上、高純度化も容易にした。ヤヌスキューブはかご型構造を持つケイ素化合物で、かごの立方体骨格の対面に2種類の有機物(置換基)を結合することで、多様な高機能材料の実現が期待できる。

 ヤヌスキューブは立方体(キューブ)骨格の対面に2種類の置換基を持つことから、古代ローマの神話に登場する2つの顔を持つ神ヤヌスにちなんでその名がつけられた。20年以上前からいくつかの合成法が試みられてきたが、いずれも不純物が副生成物として生まれ、ヤヌスキューブを純度よく分離するのが困難だった。

 研究グループは、フッ素を含むケイ素化合物を新たに合成して原料とした。この原料はヤヌスキューブをちょうど二つに割ったような分子で、市販されている原料から1段階または3段階で合成できるという。ハーフキューブを原料に使ったことで、困難な分離精製なしに比較的容易にヤヌスキューブが合成できるようになった。

 従来の合成法では、ケイ素と塩素を含む化合物を原料として使っていたが、ケイ素と塩素の結合は水などによって比較的簡単に切れるなどの問題があった。そのため不純物が生まれやすかったが、新合成法では結合状態が非常に安定したフッ素とケイ素の化合物を原料として使ったことで、不純物が生まれにくく分離精製も容易になった。

 開発したヤヌスキューブを原料として利用すれば立方体骨格の対面にさまざまな置換基を導入でき、有機と無機の良さを生かした有機-無機ハイブリッド材料など多様な高機能材料が実現できる。シリカやアルミナなど金属酸化物や金属と直接反応する材料の開発も可能になり、有機材料と無機材料を結合させる耐熱性の高い接着剤の実現も期待できるという。研究グループは今後、実用化へ向けてコストダウンや大量合成の検討を進める。

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