(独)物質・材料研究機構は12月22日、大阪大学、東京大学の研究グループと共同で、従来の100万分の1の消費電力で、演算も記憶もできる新トランジスタ「アトムトランジスタ」の開発に成功したと発表した。このような“記憶する演算素子”は、起動時間ゼロのパソコン開発などに不可欠で、今回の開発成功によりその実現が早まるものと期待される。
演算回路と記憶回路が別々の現在のコンピューターでは、演算回路と記憶回路間の信号伝達がボトルネックとなり、演算素子(半導体トランジスタ)と記憶素子(メモリー)の高性能化をはかっても、コンピューターとしての高性能化をはかれない状況になりつつある。
そこで、演算と記憶を一つの回路で行う方式が研究開発され、半導体トランジスタと磁気メモリーを組み合わせた“記憶する演算素子”が開発されたが、記憶に要する消費電力が極めて高くなることから、その低減が課題となっていた。
研究グループは、以前から進めていた原子の移動を制御する「原子スイッチ」の研究開発の中で、極めて少ない原子の移動でオン・オフ動作が実現可能なことを見つけ、その成果を基盤に新トランジスタ「アトムトランジスタ」を実現した。
従来のトランジスタが半導体中の電子移動を制御しているのに対し、「アトムトランジスタ」は、僅かな金属原子が絶縁体中を移動することで動作する。半導体より抵抗の高い絶縁体中を僅かな量の金属原子が移動してのオン・オフ動作なので、消費電力が極めて低くて済む。
研究を進める中で、ゲート電極に掛ける電圧領域によって、演算素子に求められる「揮発性動作」(電圧を加えている間だけオン状態を保ち、電圧ゼロでオフ状態になる)と、記憶素子に求められる「不揮発性動作」(オン状態になった後、電圧をゼロにしてもオン状態を保持する。オフ状態に戻すのには逆の電圧を加える)を1つの素子で選択的に使い分けられることが分かった。演算素子動作と記憶素子動作の電圧比は、およそ1対2で、誤動作は起こらないという。
「アトムトランジスタ」では、ゲート電極に正電圧を加えるとゲート電極から金属原子が絶縁体中に供給され、ソース・ドレイン電極近辺で金属原子濃度が臨界値と呼ばれる値を超すと絶縁体から金属的状態に変わる。この状態には、電圧オフで絶縁体に戻る揮発的な状態と、電圧オフでも金属状態を保持する不揮発的な状態がある。演算素子に求められる揮発的な状態とは、金属原子が均一に分布している状態であり、記憶素子に求められる不揮発的な状態では金属原子がナノスケールの塊を形成する。
既に1万回連続動作済みの試作「アトムトランジスタ」は、絶縁体に酸化タンタル、移動金属に銅または銀を用いた。この「アトムトランジスタ」が記憶素子として動作する時に要する電流は、ピコ(1兆分の1)アンペアで、磁気メモリーと比べると消費電力は100万分の1。演算素子として動作時の消費電力も、半導体トランジスタの100分の1と少ない。
No.2010-50
2010年12月20日~2010年12月26日