「酸化物型燃料電池」の安定性低下原因を解明
:物質・材料研究機構

 (独)物質・材料研究機構は11月9日、家庭用電源や大型発電システム向けに開発が進められている「酸化物型燃料電池」の長期安定性低下の原因を解明したと発表した。長寿命で信頼性の高い高性能燃料電池の開発につながる成果という。
 酸化物型燃料電池は、イオンを通す電解質に固体酸化物を用いた燃料電池。燃料電池自動車向けの高分子型電池の運転温度が数十℃から100℃程度なのに対し、酸化物型燃料電池の運転温度は650~1000℃と高く高い発電効率が得られ、また排熱を利用してガスタービン発電も行う大型複合発電システム向き、などの特徴がある。
 ただ、長時間運転し続けていると固体電解質物質が、高い伝導率を示す結晶相(ホタル石結晶相)から低い伝導率の結晶相(C型希土類結晶相)へと相転移してしまい、性能や信頼性を維持し続けることが難しいという問題点を抱えている。
 この現象を説明する理論として、これまで「直鎖状酸素欠陥クラスターモデル」が提唱されていた。それは、電解質中でイオンが伝導する足場となる酸素欠損が特定の場所に集中して直鎖状の欠陥クラスター(塊)を成長させ、あるところで伝導率の低いC型希土類結晶相に不連続的に相転移する、という理論。しかし、このモデルでは、長時間運転し続けた場合の性能の低下と低伝導結晶相の発生する理由とを合理的に説明できなかった。
 研究チームは今回、高分解能透過電子顕微鏡を用いて電解質中のナノスケールの欠陥構造を観察すると共に計算機シミュレーションで結晶構造を解析、その結果を基に「ダンベル型酸素欠陥クラスターモデル」という新しいモデルを考案した。ダンベルに似た形状の酸素欠陥クラスターがブロックを積み上げるように連なり成長していくというもので、このモデルでは連続的なクラスター構造の成長によって相転移が起こることが説明できるという。
 ダンベル型酸素欠陥クラスター構造は、イオンを伝えやすくするために導入するドーパント(結晶に注入する不純物。通常は、酸化ガドリニウム)が原子スケールで僅かに不均一に分布することで形成され、製品製造中に生じるこの僅かなドーパントの不均一さが結果的に製品性能のバラツキを生じさせ、長期安定性低下の原因になっていることがこのモデルから判断できるという。新モデルで原因がつかめたことにより、今後は性能改善に向けた取り組みが可能になるとしている。

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