クローンマウスの出生率10倍以上高める技術を開発
:理化学研究所/東京医科歯科大学/大阪大学/長浜バイオ大学

 (独)理化学研究所は11月7日、東京医科歯科大学、大阪大学、長浜バイオ大学と共同で遺伝子の塩基配列を変えずに遺伝子発現を抑制するRNA(リボ核酸)干渉法により、体細胞クローンマウスの出生率を10倍以上改善する技術の開発に成功したと発表した。
 体細胞クローン技術は、核移植技術の一つで、親と同じ遺伝情報を持った「コピー」動物を作ることができることから、実験動物を利用する畜産や製薬・医療などの分野で技術の応用が期待されている。しかし、現状では、体細胞クローン動物の生産効率は数%にすぎず、著しく低い状態にとどまっている。
 理研バイオリソースセンター(茨城・つくば市)などの共同研究グループは、体細胞クローンの生産効率が低い理由を明らかにするため、マウスをモデルとして研究を続けてきた。その結果、昨年、性染色体の1つであるX染色体で、Xist(エグジスト)遺伝子が過剰に働くと、多くの遺伝子群の働きが低下することを発見した。
 さらに、Xist遺伝子を欠失したノックアウトマウスを用いて、体細胞クローンの産子(うぶこ=あかご)を作る効率を、10倍近く改善することに成功した。しかし、この方法は、遺伝子の欠損という遺伝子改変を伴うため、マウス以外の動物では法律的・技術的な壁があり、より簡便で実用可能な方法の開発が望まれていた。
 今回、遺伝子の塩基配列を変えることなく、ある特定の遺伝子の機能を抑えるRNA干渉法という手法を用いて、クローン胚でのXist遺伝子の発現の一時的な抑制を試みた。その結果、クローン胚の発生能力は劇的に改善し、通常の10倍以上の効率(移植胚あたり10~20%)でクローン産子を作ることに成功した。
 また、クローン産子の遺伝子発現を調べたところ、通常のクローン産子に見られる遺伝子発現の乱れが大幅に改善しており、RNA干渉法によるXist遺伝子の発現抑制効果が、出生後の様々な遺伝子発現までも改善していることが分かった。
 RNA干渉法は、遺伝子改変を伴わないため、開発した技術はマウス以外の家畜などの各動物実験にも応用が可能で、畜産、医療、製薬分野への体細胞クローン技術の本格的導入の実現が期待できる。
 この研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(略称:PNAS)」11月7日号に掲載された。

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