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わかる科学

見えているのに見えない「注意の瞬き」はサルにもあった?!

(2024年1月01日)

 スマートフォンで動画を見ているとき、回線状態に問題はないのに、映像が一瞬止まって次の画像にワープしたような経験をしたことがあるのではないでしょうか。

 この現象は認知科学の分野では「注意の瞬き(Attentional Blink)」として知られています。目から入力された視覚情報がどんどん脳に送られていくとき、一つの画像に注目すると、それに引き続く画像が数100ミリ秒ほどの間、知覚できなくなる現象です。先行画像に注意を払うと後続画像が見えなくなり、注意を払っていない場合は後続画像が見えなくなることはありません。知覚のコマ落ちともいえるこの現象は以前からヒトにはあることがわかっていましたが、今回サルにも起こることがわかりました。

 調べたのは、京都大学大学院人間・環境学研究科の小村 豊 教授・知念 浩司 研究生・河端 亮良 修士課程学生らの研究グループです。実験は、サルにモニター上に次々に現れる画像のうち2枚の画像に注目して複数のバー(合図をするための装置)を操作して報告してもらう二重課題(2つの認知判断を求める課題)と、1枚の画像に注目してバーで報告してもらう単一課題の2種類で行いました。その結果、2枚の画像を見せたときは、ヒトと同じように知覚のコマ落ち現象がみられたといいます。

 ただ、ヒトと比べるとサルの方がコマ落ちの時間が長く、感覚信号が意識に上るときの処理速度は遅いことがわかりました。そこで詳しく調べてみると、画像に注意してからの経過時間とコマ落ちが起こる頻度の関係は時間軸を圧縮すればサルもヒトと同じカーブを描いていることもわかりました。つまり、サルはヒトよりも処理時間が少し遅いものの、意識の働き方は同じだったということです。

 また、フランスの研究グループは昨年、ヒトの赤ちゃんの「注意の瞬き」の時間は、成長とともに短くなることがわかったと発表しました。これらの知見から、進化の過程で意識の処理速度がスピードアップしていった可能性があると考えられます。今回の成果によって、脳の意識処理の進化についての理解を深めることができるのではないかと研究者は考えています。

 この研究成果は、2023年10月31日(米国東部時間)、国際学術誌「iScience」にオンライン掲載されました。

 感覚情報を脳がどのように認知しているのか、また情報量が多くなるとどのような仕組みで情報の一部が知覚できなくなるのか。そのメカニズムが解明されることで、意識を数理情報に変換する技術を作り出していけるかもしれません。

          プレスリリース図:望月アミ、はやのん(理系漫画制作室, 2023)
          Mochiduki Ami and Hayanon (Science Manga Studio, 2023)
          https://www.sciencemanga.jp/

 

 

【参考】

■京都大学プレスリリース

知覚のコマ落ちから、意識の時間を可視化

 

サイエンスライター・白鳥 敬(しらとり けい)
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。