[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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多様な卵でカッコウの托卵(たくらん)を防ぐ!?

(2023年8月15日)

 カッコウの仲間は、他種の鳥の巣に卵を産みつけて、抱卵や子育てを巣の主にさせる「托卵(たくらん)」という寄生行動をとることがあります。巣の主、つまり仮親は、カッコウの産む卵が、自身の産んだ卵とよく似ているので、ふつう区別できません。

 クロオウチュウはアフリカのサハラ以南に生息する鳥で、驚くほど多様な色と模様の卵を産みます。アフリカカッコウは、クロオウチュウの巣に卵を産み落とし、自分でヒナを育てません。いわゆる托卵です。

 このほど、ケンブリッジ大学とケープタウン大学を中心とした研究チームは、クロオウチュウがカッコウに托卵された「偽の」卵を高い確率で見破ることを明らかにしました。

 この研究では、アフリカのザンビアで4年間、9月から11月にかけて野外調査が行われました。まず、クロオウチュウの卵とカッコウの卵の色や模様の違いを画像解析の技術を使って測定しました。その結果、カッコウの卵の色や模様は、どれもクロオウチュウの卵のそれとほとんど同じであり、カッコウの卵はクロオウチュウの卵にほぼ完璧に擬態(ぎたい)していることがわかりました。

調査地で採集されたクロオウチュウとアフリカカッコウの卵。(a) 調査地で採集され、ザンビアのリビングストン博物館に所蔵されているクロオウチュウとカッコウの卵。1つの巣でみつかった卵が3つずつ並べてあり、それぞれの右下にあるのがカッコウの卵。(b) 調査期間中に撮影されたカッコウ(cuckoo)の卵(左)とクロオウチュウ(drongo)の卵(右)。それぞれの卵は異なるメスのもの。[Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences (2023) 290: 20231125. より引用]

 その一方で、野外実験やシミュレーションなどの一連の研究から、 カッコウの卵はクロオウチュウの卵の色や模様に擬態しているにもかかわらず、カッコウの卵の93.7%がクロオウチュウに拒絶されると予測されました。クロオウチュウの卵の色や模様はメスによって、それぞれ異なりますが、クロオウチュウはそれを目印にして、カッコウの卵の大部分を見破り、拒絶できるようなのです。

 つまり、カッコウが本物そっくりに卵の外見を進化させても、クロオウチュウはそれを見抜いてしまうというわけです。ザンビアの今回の調査地域では托卵が多くみられるのですが、クロオウチュウは特にきめ細かく防御しているので、どうもカッコウにはほとんど勝ち目がないようなのです。今回の研究成果は、クロオウチョウが自らの卵を多様化させることは、カッコウの卵のほぼ完璧な擬態に対して、非常に効果的な防御の戦略であることを示しています。

 ところで、今回の研究にもとづけば、カッコウの卵の大部分はクロオウチュウに拒絶されてしまうので、カッコウのメスが生涯に産んだ卵のうち、孵化(ふか)してヒナになるのは2羽ほどになる可能性があるようです。しかし、それではカッコウの数が減少してしまうと考えられるのですが、実際には、アフリカカッコウはアフリカの多くの地域で広く見られる鳥であり、とくに個体数が減っているというわけでもないようです。これは新たな謎であり、さらに研究を進めたいと研究グループでは考えています。

 

【参考】

Lund J. et al. (2023) When perfection isn’tenough: host egg signatures are an effectivedefence against high-fidelity African cuckoomimicry. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences (2023) 290: 20231125.

https://doi.org/10.1098/rspb.2023.1125

保谷 彰彦 (ほや あきひこ)
文筆家、植物学者。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門は植物の進化や生態。主な著書に新刊『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共にあかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。
https://www.hoyatanpopo.com