熊が桜のタネを高所に運んでいる
―植物のタネの移動を測定する方法を開発
:森林総合研究所(2016年4月27日発表)

 (国)森林総合研究所は4月27日、他の8つの機関と共同で、熊が桜のタネを高所に運んでいることを発見、タネの高標高・低標高への移動を測定する方法を開発したと発表した。

 自ら動けない植物にとって、タネの散布は唯一の移動手段。その移動は、風や水流、動物などによって行われ、水平方向への散布についてはたくさんの研究がある。一般に風より動物によって運ばれる距離の方が長く、クマやサルなどの大型の哺乳類の方が鳥類よりその距離が長いことが明らかになっている

 しかし、標高方向の種子散布については、これまで研究例がなかった。

 標高方向の種子散布を評価するには、既存の方法だと1個1個の種子について山の中に無数に生えている木から親木と呼ばれる元の木を見つける必要があるなど大きな労力が必要だったためこれまで標高方向の種子散布は一度も評価されていない。

 今回の研究は、標高が高くなるほどそこに生育する植物の種子の酸素安定同位体比(安定同位体の割合)が小さくなることに着目し、動物によって運ばれた種子の親木が位置する場所の標高をつかむ方法を見つけ、種子の標高方向の散布距離(標高差)を求めることを可能にした。

 研究グループは、この手法を北海道から九州にかけての山地に自生するサクラの一種、カスミザクラに適用し、東京都の奥多摩地方で2012年と2013年に標高550〜1,290mのさまざまな場所でその地域に生息するツキノワグマとテンの糞を採取し、中に含まれるカスミザクラの種子を取り出した。

 その結果、ツキノワグマによって平均で307m、テンで同193mそれぞれ標高の高い場所に種子が散布されていることが分かった。

 カスミザクラのように果実が動物に食べられて種子が糞として排出され散布されることを「周食散布」といい、アリからゾウまでさまざまな動物によって行われている。

 森林総研は「周食散布植物の種子散布を1種1種ていねいに評価していくことで、哺乳類や鳥類が森林の維持にどのような役割を果たしているかが明らかになっていくものと期待される」といっている。

 この共同研究に参加したのは次の8機関。東京農工大学、総合地球環境学研究所、滋賀県琵琶湖環境科学研究センター、日本大学、酪農学園大学、東京農業大学、東京大学、京都大学。

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