世界初、ダイヤ半導体製FETの動作を確認
―省エネ・低損失のパワーデバイス開発に道
:産業技術総合研究所/東京工業大学/科学技術振興機構

 (独)産業技術総合研究所、(独)科学技術振興機構、東京工業大学は8月21日、ダイヤモンド半導体を用いた接合型電界効果トランジスタ(FET)を作製し、動作させることに世界で初めて成功したと発表した。ダイヤモンド製トランジスタは、電力を制御するパワーデバイスの高電圧化、大電流化に対処できる素子で、省エネルギー・低損失の特徴を併せ持つ次世代デバイスの開発に向けて道が開けたとしている。
 半導体パワーデバイスは、鉄道や電気自動車、太陽光発電、送電などの電力機器の電圧、電流、周波数を変換・制御する半導体素子。現在はシリコン製が主流だが、動作速度や耐えられる電圧・電流、放熱などの面で限界に近付いており、代わって炭化ケイ素や窒化ガリウムを新材料に用いたパワーデバイスの開発が進んでいる。
 ダイヤモンドは、これらの新材料よりも絶縁破壊電界や熱伝導率が大きく、究極の物性値を持つことから、高電圧に強く、大電流を流した時の放熱にも優れる有力なパワーデバイス材料として期待が寄せられている。ただ、トランジスタとしての基本要素である横型pn接合の形成や、その電界制御がこれまでは困難で、その解決がデバイス化の課題とされていた。
 研究チームは、マイクロ波プラズマ化学気相合成法という手法に工夫を加え、高濃度のリン不純物を添加したn型ダイヤモンド半導体を選択的に形成する結晶成長技術を開発、これによりn型、p型、n型を横方向に接合した接合型電界効果トランジスタの作製に成功した。
 動作性能を調べたところ、ゲート電圧を上げて空乏層(自由電子と正孔がほとんど存在しない領域)をp層の幅全体にまで広げると電流は完全に遮断され、トランジスタはオフ状態になること、オフ時の漏れ電流は数フェムトアンペア(フェムトは1000兆分の1)程度に保たれ、高いオン・オフ比と鋭い立ち上がりを持つトランジスタとして動作することを確認できたという。
 ダイヤモンド半導体を用いた接合型電界効果トランジスタの動作が実証できたことで、研究チームは今後、大電流化や高電圧化のためのデバイス構造をはじめ、大口径ダイヤモンド基板を用いたデバイス作成法などを研究開発し、実用化への道を開きたいとしている。

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選択的成長技術で作製した接合型電界効果トランジスタの電子顕微鏡写真と測定に用いた回路図(提供:産業技術総合研究所)