[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

研究者コーナー

004.着生植物 -植物の上で暮らす植物たち-
(国立科学博物館 筑波実験植物園 植物研究部 多様性解析・保全グループ 研究主幹 堤 千絵さん)

(2023年12月11日)

堤 千絵(つつみ・ちえ)さん
国立科学博物館植物研究部 多様性解析保全グループ 研究主幹、理学博士。 植物の系統や進化に関する研究を行っている。筑波実験植物園の業務を担い、植物園における学習支援活動などにも取り組む。

2017年に南硫黄島で79年ぶりに発見されたシマクモキリソウなど、希少な植物をガラス容器の中で育てている 。
(研修展示館2F培養室にて撮影)

 万有引力を発見したアイザック・ニュートンは「もし私がさらに遠くを見ることができたとするならば、それは巨人たちの肩の上に乗ったからだ。」との言葉を残している。

 ニュートンの言葉はもちろん比喩的表現だが、植物の世界にはこれを真に受けてしまったかのような一群が存在する。着生植物(ちゃくせいしょくぶつ)といい、かつては林床に生えていたものが、いかにして高い木に登り、樹上生活を送るようになったのかという謎を堤さんは追っている。

 

 

静かにたたずむ植物に満ちる生命力

 「一見、ただそこにいるだけのように見える植物も、調べてみると実にしたたかに生きているし、生きる力にあふれている。そんな植物の生きざまや、どうしてその特徴を獲得したのかなどが、少しでも分かってくると面白い。」と、堤さんは話す。

 学生時代、京都大学で初めは心理学を学ぼうとしていたが、3年生のころから植物へ興味が向いていったという。「生きにくさを感じている人が多くいる社会で、どうしたら生きる力を強く持つことができるのかと悩んでいた。そんな時、世界各地の変わった場所に生える面白い植物の話を聞いて、知れば知るほど生きる力がすごいなと感じた。植物の生命力を伝えることで、人の生きる力になればいいと思う。」大学院からは着生植物について研究し、進化の過程でどのように木の上へ移動したのかなどを調査した。

地生のシノブの一種(左写真)と、半着生のワラビツナギ(右写真)

 着生植物はシダやランの仲間によく見られる。シダ類のシノブ科の植物は樹上で発芽し生涯を樹上で過ごす「真正着生(しんせいちゃくせい)」のものが多く、それに対し近縁種のツルシダやタマシダは地面で発芽し木に登った後で根が地面から離れる「着生性半着生(ちゃくせいせいはんちゃくせい)」、ワラビツナギやツルキジノオは木に登りながらも常に根を地面に残す「地生性半着生(ちしょうせいはんちゃくせい)」の生活形を示す。これらを遺伝子解析を用いて系統化した結果、シノブ科は地生から半着生を経て真正着生へと段階的に進化したことが示唆されたという。

 

木の上で生きるためのさまざまな工夫

 では、なぜ彼らはつるを伸ばして木に登ったのか。

 「おそらく光を求める競争があった。森の中は暗く、光を得るには上を目指さなくてはいけない。だが自らが大きく頑丈な木になるのは大変なので、つるになってほかの木をよじ登ることで実現させた。」だが樹上は土と接点がないため水分を得にくい。それを補うため着生植物は、水を集めたり、貯める仕組みを持つものが多い。

熱帯雨林温室内、さまざまな着生植物が集まるコーナー(筑波実験植物園にて撮影)

 「例えば、細い茎葉を房状に伸ばして空気中の水分を取り込むものや、たくさんの葉を放射状に開いてその内側に雨水を貯めこむものもいる。シノブ類の場合は、茎が鱗片(りんぺん)に覆われてその隙間に水を貯めることができ、着生化が進んだものほど鱗片の形態が複雑で多様化している。」

菌と共生しながら成長する、発芽したばかりのシマクモキリソウ

 ランの場合は、地生から一足飛びに樹上へ移ったようだ。ここでは共生菌との関係に着目している。ラン科の植物は、普通に種をまいただけでは発芽せず、特定の菌と共生することで生育する。菌は植物の体内へ菌糸を伸ばし、植物はその菌糸を分解しながら糖類などの養分を得る。共生する菌の種類もランによってさまざまだそうだ。

 「着生種のフガクスズムシソウと、地生種のクモキリソウでは共生菌がわずかに異なり、どちらも自らのパートナーの菌とでないとうまく生育しなかった。フガクスズムシソウの場合、樹上で新たな菌パートナーを獲得したことが、着生種への進化につながったと推察される。」

 

より直観的に、五感で楽しめる植物園へ

 世界の陸上植物は約40万種で、日本には約7,000種があり、そのうち4分の1は絶滅危惧に瀕している。貴重な植物の特性を調べ、守るすべを探ることも植物園の重要な任務だ。

 また、植物園における学習支援活動にも力を注いでいる。堤さんの場合は特に、大人や子ども、障害者や健常者などを問わず、多くの人々が楽しめるような企画を心掛けている。その一例が「手話で楽しむ植物園」という講座だ。

左から「花」「めしべ」「おしべ」を表わす手話

 「単に手話通訳を付けるだけでなく、手話を学びながら植物の理解も深めることができる。手話を使うことで、植物についてより理解しやすく、親しみやすくなり、一緒に手を動かして手話を体験すれば記憶にも残りやすい。」面白いのは、植物に関する手話自体が、その仕組みや特徴を的確に捉えたものが多いこと。例えば花の中心にはめしべが、その周辺にはおしべがあり、おしべにできる花粉がめしべにくっついて受粉することも、手の形や動作によって表現されている。

 「手話で楽しむ植物園」は2012年から毎年実施され、応募が定員いっぱいになることもある人気ぶりだ。ほかにも特別支援学校との連携など、インクルーシブな取り組みの数々を、他の植物園に先駆けて実施しているという。

 

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池田 充雄(いけだ・みちお)
ライター、1962年生。つくば市内の研究機関を長年取材、一般人の視点に立った、読みやすく分かりやすいサイエンス記事を心掛けている。