[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

大学や研究機関と連携した線状降水帯のメカニズム解明研究(気象庁気象研究所 永戸 久喜)

(2023年10月17日)

 次々と発生する発達した雨雲(積乱雲(せきらんうん))が列をなした、組織化した積乱雲群が、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、長さ50~300km程度、幅20~50km程度の線状に伸びる強い降水域を線状降水帯(せんじょうこうすいたい)といいます(図1)。線状降水帯による顕著な大雨によって、毎年のように数多くの甚大(じんだい)な災害が生じているため、その予測精度向上は喫緊の課題となっています。一方で、その発生や停滞等のメカニズムに未解明な点が多く、予測することの困難な事例が数多くあるため、今後も継続的な研究が必要不可欠です。

 

図1: 線状降水帯の例と代表的な発生メカニズムの模式図(出典:気象庁ホームページ

 

 気象研究所では、大学や研究機関と連携して、海上及び陸上で様々な測器を用いた観測により、水蒸気をはじめとする線状降水帯の発生・停滞等にとって重要な気象要素を定量的に把握するため、令和4年(2022年)梅雨期に東シナ海から九州を中心に集中観測を実施しました(図2)。この集中観測では、気象庁による気象レーダー、ウィンドプロファイラ等の地上からの観測、海洋気象観測船からの全球測位衛星システム(GNSS)を用いた水蒸気観測やラジオゾンデ観測の実施に加え、気象庁の通常観測点や臨時の地上観測点で追加のラジオゾンデ観測を行いました。また、大学等により、練習船・調査研究船や地上観測点からのラジオゾンデ観測及びマイクロ波放射計等による水蒸気観測、航空機からのドロップゾンデ観測、地上観測点での降水粒子の観測も実施されました。これらの観測の一部のデータは、リアルタイムで気象庁に送られ毎日の数値予報や実況監視に利用されました。

 

図2: 令和4年(2022年)梅雨期に実施した集中観測の実施マップ(出典:気象業務はいま2023

 

 さらに、鹿児島大学、長崎大学及び三重大学の3大学合同による東シナ海での毎時観測の結果を用いた解析により、海面水温の前線による下層大気の気温・風速場の変化が、大雨をもたらす積乱雲の発生に大きく影響する可能性が分かってきました。また、山口大学による線状降水帯を構成する積乱雲中の降水粒子を直接撮影可能な新しいビデオゾンデを用いた観測では、観測データを用いた降水粒子の詳細な特徴の解析に初めて成功しました。これらの成果は、線状降水帯の発生や停滞等のメカニズムの理解につながることが期待されます。

 

 線状降水帯の発生要因となる現象は、低気圧、前線、台風等様々であり、これらの現象ごとに発生に必要な条件を詳細に調査するためには更なる観測が必要であることから、令和5年(2023年)梅雨期にも、東シナ海から九州を中心に大学や研究機関と連携した観測を実施しました。現在、気象研究所や各機関において、取得した観測データ等を用いた解析を進めているところです。今後も、共同研究や各種研究プロジェクトによる連携も視野に、大学や研究機関と協力して観測を実施するとともに、これら観測データも活用した線状降水帯のメカニズム解明研究を連携して進めてまいります。

 

永戸 久喜(えいと・ひさき)

気象庁気象研究所研究連携戦略官
1993年気象庁入庁、札幌管区気象台技術部技官、気象研究所予報研究部主任研究官、予報部数値予報課数値予報モデル開発推進官、予報部予報課アジア太平洋気象防災センター所長などを経て、2022年より現職。