イネにリン酸欠乏耐性もたらす遺伝子突き止める
―機能を解明、途上国のコメ生産向上に朗報
:国際農林水産業研究センター/国際稲研究所/ミラノ国立大学

 (独)国際農林水産業研究センターは8月24日、フィリピンにある国際稲研究所(IRRI)やイタリアのミラノ国立大学との共同研究で、低リン酸土壌でも生育できる在来インド型イネから、リン酸欠乏に対する耐性をもたらす遺伝子「PSTOL1(リン酸欠乏耐性遺伝子)」を特定し、その機能を世界で初めて明らかにしたと発表した。
 リン酸は、肥料の三大要素の一つで、リン酸含量の低い土壌が広く分布するアジア、アフリカの途上国では、土壌中のリン酸を効率的に吸収させて作物収量を高めることが重要になっている。
 低リン酸土壌でも生育できる在来インド型イネに、「Pup1」というリン酸の吸収を増大させる遺伝子座(遺伝子領域)が2002年に発見された。しかし、効率的に遺伝子を活用するためには、その遺伝子座の中のどの遺伝子がリン酸の吸収を増大させるのか、詳細な検討が必要とされていた。
 国際研究グループは、2005年から4つまでに絞り込まれた候補遺伝子を検証するため、それぞれの遺伝子を導入したイネの特性の検定を共同で実施した。その結果、リン酸の吸収を増大させる遺伝子として、Pup1遺伝子座の中にあるPSTOL1を特定した。
 この遺伝子を、アジアの代表的品種であるIR64(インド型)と日本晴(日本型)に導入し、リン酸吸収に関わる特性である「根長(こんちょう)と根重(こんじゅう)」などを調べた結果、両品種とも低リン酸条件下でも根の生育が進み、リン酸吸収が促進されることが分かった。また、PSTOL1の働く部位を観察した結果、冠根といわれる部位(イネの地上部と根の境目などから出る根が発生するところ)で働くことも分かった。
 この研究から、PSTOL1は、イネの根の数を増加させ、1株当たりの根の表面積を増やすことによって、イネのリン酸吸収量を増やすことが分かった。研究では、リン酸吸収量が50%増加し、特に低リン酸土壌ではリン酸吸収量の増大が、イネの収量の増加にも結びついた。PSTOL1は、根の形成に関わる酵素の合成を制御していると推定されている。
 今後、新たな品種開発によって、土壌中のリン酸欠乏により生産が制約される途上国のコメ生産向上へ貢献することが期待される。
 研究成果は、8月23日付けの英科学誌「ネイチャー」(オンライン版)に掲載された。

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リン酸の吸収を増やす遺伝子「PSTOL1」を持つイネ(左)と持たないイネ。生育が大きく異なっている(提供:国際農林水産業研究センター)