
上は、交信かく乱剤を封入したディスペンサーを設置したサトウキビ畑、下は、1株あたりの幼虫数(提供:農業生物資源研究所)
(独)農業生物資源研究所(生物研)などの研究グループは2月20日、性フェロモンを利用してサトウキビに大きな被害をもたらす害虫を防除する技術を開発したと発表した。害虫の性フェロモンを畑に充満させることで害虫の交尾を妨害、害虫の数を食害の出ない20分の1程度にまで減らすことに成功した。環境負荷の少ない農薬として農薬登録の取得を進めており、早期の実用化を目指す。
■環境負荷も少なく
生物研と沖縄県農業研究センター、信越化学工業(株)の研究グループは、沖縄県宮古島などで大きな被害をもたらしているサトウキビの害虫「ケブカアカチャコガネ」の防除技術に取り組んだ。
まず、この害虫の生態解明を進めた。その結果、幼虫は地中で過ごし、成虫は2月の夕方30分間ほど地上に出て交尾相手を見つけることが分かった。また、交尾の際にオスを呼び寄せるためにメスが分泌する性フェロモンの成分が、「2‐ブタノール」と呼ばれる揮発性の高いアルコールの一種であることを突き止めた。そこで、この成分を利用して、性フェロモンを目印にメスを探し出すオスの交尾行動をかく乱させて害虫の繁殖を防ぐ技術の有効性を調べた。
実験では、性フェロモンをサトウキビ畑に充満させるため、この成分を封入したポリエチレンのチューブを畑に張り巡らした。その結果、チューブを張り巡らした畑ではメスは1%しか交尾しなかったのに対し、何もしなかった畑ではメスの100%が交尾していた。
さらに翌年、同じ畑で幼虫の数を調べたところ、チューブを張り巡らした畑ではサトウキビ1株当たり0.1匹以下しか見つからず根は健全だったのに対し、何もしなかった畑では2匹程度見つかり、根は幼虫に食われて壊滅的だった。
コガネムシ類の幼虫は地中にいるために既存の殺虫剤による防除が困難だった。多量の化学農薬を地面に散布することも環境面から難しかった。これに対し今回の技術は、環境に大きな負荷を与えることなく、「ケブカアカチャコガネの被害を大幅に減らすことができる」と研究グループは話している。