(独)物質・材料研究機構は2月19日、慢性腎不全患者の血液中にたまる毒素成分「クレアチニン」を選択的に吸着・除去する新材料を開発したと発表した。太さがナノ(10億分の1)メートル単位の高分子繊維に吸着剤を包み込んだ不織布を開発、高い吸着性を確認した。水や電力が使えない災害時でも、患者の応急処置に使える携帯型透析システムの実現に道を開くと期待している。
■携帯型システムの実現に道
腎臓は1日に150ℓもの血液をろ過、老廃物や毒素を尿として体外に排出している。その機能が低下すると人為的に血液をろ過する人工透析が欠かせないが、透析液を大量に使うために水や電力が使えない災害時には治療が困難だった。
今回開発したのは、腕にはめるだけで応急処置を可能にする腕時計型透析システムにカートリッジ方式で組み込むことを想定したメッシュ状の新材料。生体適合性に優れた高分子「エチレンビニルアルコール」を太さ数百nm(ナノメートル)の繊維状に加工、繊維同士が絡み合ったメッシュ状の不織布にした。
さらに、この不織布を作る際に、血中に含まれるクレアチニンと同程度の大きさの微細な孔をたくさん持つ多孔質鉱物「ゼオライト」の微粒子を包み込み、血液中からクレアチニンを吸着・除去できるようにした。
この不織布を使って溶液中のクレアチニンがどの程度吸着・除去できるかを調べたところ、高い吸着性能を持つことがわかった。人間は通常、体重1kg当たり毎日約150μmol(マイクロモル、マイクロは100万分の1、molは化学物質の量の単位)のクレアチニンが体内にできるが、今回開発した不織布が吸着できるのは繊維1g当たり約20μmolだった。
研究グループは「吸着特性はまだ満足のいくものではないが、不織布を定期的に取り換えたり、ゼオライトの最適化などを行ったりすることで実用レベルへの機能向上が期待できる」と話している。

上は、緊急時でも利用可能な腕時計型の尿毒素除去システムのイメージ図。腕時計にはゼオライトを含有したエチレンビニルアルコールからなるナノファイバーが装着されている。下は、ゼオライト含有のナノファイバー不織布(a)と、電子顕微鏡写真:スケールバー8μm=1μmは100万分の1m(b)(提供:物質・材料研究機構)