凍結保存した子豚の精巣使い妊娠・出産に成功
―希少家畜品種の遺伝資源保全などに活用期待
:農業生物資源研究所/麻布大学

上は移植後の精巣の顕微鏡像(移植後254日)。精巣組織中(精細管)に多数の精子が見られる(矢印)。下は分娩した子豚(雄2、雌3頭、分娩後5日)(提供:農業生物資源研究所)

 (独)農業生物資源研究所(生物研)と麻布大学は8月12日、凍結保存した子豚の精巣を実験動物のヌードマウスに移植して発育させ、精子を採取して子豚を誕生させることに成功したと発表した。凍結保存した精巣をもとに子を誕生させたのは初めて。幼若期の死亡率が高い医療研究用の疾患モデル豚の系統維持や、精液採取が難しく急速な減少が心配される希少家畜品種の遺伝資源保全に役立つと期待される。

 

■「ガラス化液」に浸す冷却法で保存

 

 生物研動物科学研究領域の金子浩之上級研究員、菊地和弘上級研究員と麻布大獣医学部の柏崎直巳教授の研究グループが研究を担当した。
 実験では、生後10日前後の子豚の精巣を約1mm角切って液体窒素内に入れ、マイナス196℃という極低温下で保存した。凍結に際しては、試料を高濃度のグリセリンなどを含む液=「ガラス化液」に浸す冷却法を採用。細胞内の水分を急速にガラス化液に置き換えて氷の結晶成長による細胞破壊を防いだ。この方法では140日以上保存した後でも、保存前と同じく精巣細胞の存在が確認された。
 これを解凍後に免疫機能のないヌードマウスの背中に移植したところ、精巣組織が発育した。移植から230~350日後に組織を取り出し顕微鏡で観察した結果、多数の精子が作られていることを確認、精子を回収することもできた。
 回収した精子を雌豚から取り出した成熟した卵子に顕微鏡下で受精させ、雌豚の卵管に移植した。その結果、8頭の雌豚のうち2頭が妊娠、雄4頭とメス3頭の合計7頭の子豚が生まれた。子豚の精巣を採取直後にヌードマウスに移植・成熟させて取り出した精子で子豚を誕生させた例はあったが、凍結保存した精巣を使って成功した例はこれまではなかった。
 今後、疾患モデル豚やアジア各国の豚品種を用いた実証研究を進めるとともに、雌豚の卵巣組織への応用研究も進め、豚の遺伝資源の効果的な保存技術の確立を目指す。

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