(独)物質・材料研究機構は4月30日、ドイツのアーヘン工科大学、ユーリッヒ研究所の研究グループなどと共同で、固体電気化学反応での電子の授受や金属イオンの還元・析出を原子レベルで観察することに成功したと発表した。化学反応式からは読み取れない様々な反応現象を視覚的にとらえることを可能にした成果で、固体電気化学反応を利用している燃料電池やガスセンサーなどの高性能化に有用な指針を提供できそうだという。 固体電気化学反応は、イオン伝導体中のイオンが還元されて中性の原子となって析出する「還元反応」と、析出した原子がイオン化されてイオン伝導体中に取り込まれる「酸化反応」を指し、近年、燃料電池やガスセンサーの電極反応などに幅広く利用されている。 物材機構の研究チームは、今回この反応の観察に、原子レベルで物質を観察できる走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いた。固体電気化学反応の仲立ちをするイオン伝導体は、電子伝導性がないので、微弱な電流を必要とするSTMではこれまで、イオン伝導体の観察はできなかった。 それに対し研究チームは、イオン伝導体であるヨウ化ルビジウム銀に、ごく少量の鉄を加えることにより、イオン伝導体の特性を損ねることなく電子伝導性を持たせることに成功した。この結果、イオン伝導体のSTM観察が可能になり、固体電気化学反応に必要な電子の授受と、それに伴う金属イオンの還元・析出反応の観察が実現した。 観察の結果、固体電気化学反応では、電圧印加後、金属イオンの還元・析出反応が始まるまでに一定の時間を要すること、また、ある値以上の電圧を印加するとその時間が無視できるほど小さくなることなどが明らかになったという。 開発した観察手法は、固体電気化学反応全般に適用できるため、この反応を利用した各種の技術・製品の高効率化などが期待できるとしている。
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走査型トンネル顕微鏡がとらえた固体電気化学反応で形成されたクラスター。(a)は、クラスター形成前の表面。(b)は、クラスター形成後の表面(提供:物質・材料研究機構) |
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