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シカによる森林の食害―土壌微生物にも影響:京都大学/福島大学/兵庫県立大学/日本大学/国立環境研究所

(2023年12月22日発表)

 京都大学、福島大学、国立環境研究所などの研究グループは12月22日、シカの食害による森林被害が土壌中の微生物にまで及んでいると発表した。食害で土壌微生物の種類や量が変化し、結果的に森林植生の多様性にまで影響を与えていることを突き止めた。今後はシカの食害防止によって土壌微生物の変化を促すことで、より効果的な森林の生態系回復につなげられるかを探る。

 研究グループには兵庫県立大学、日本大学も参加、多くの地域で深刻化しているシカ(ニホンジカ)の食害による森林荒廃の原因究明に乗り出した。まず2006年に、シカの食害を防げるよう日比谷公園ほどの広さ16ha(ヘクタール)の森林を大規模な防護柵で囲んだシカ排除区を設置。食害によって土壌部生物にどんな影響が出るかを隣接する自然の森林(対象区)と比較分析できるようにした。

 研究では2020年から排除区の土壌を採取、中に含まれるDNA(環境DNA)を分析して食害が続く対象区の環境DNAとの比較を試みた。その結果、カビなどの真菌類と細菌に両区に違いはみられなかった。ただ、キノコなどの担子菌類のほか、古細菌(アーキア)の種数は排除区の方が対象区より多かった。カビなどの真菌類は両区に大きな差は見られなかったものの、動物への病原性など機能面で分類するとシカの食害を受けている対象区の方が病原菌の多いことも突き止めた。

 これらの結果から、研究グループは「シカの食害を防ぐことで、土壌微生物の多様性を守ることができる可能性を示唆している」と判断。今後はこうした土壌微生物群集の変化が森林植生の回復や維持にどのような影響を与えるかを解明し、より効果的な生態系回復策の立案に役立てたいと話している。