筑波大学は6月6日、がんの発症や悪性化と関係する「細胞増殖抑制遺伝子p21」の発現量を細胞内で調節する新しいメカニズムを発見したと発表した。細胞分裂の周期を速めるタンパク質を作用させることで、もともと不安定なp21の分解を遅らせ細胞増殖が抑えられるという。細胞内で作られるp21の発現量の異常を原因とするがんの発症メカニズム解明や新しい治療法の確立につながると期待している。
発見したのは、筑波大生命環境系の鶴田文憲助教、千葉智樹教授、兼森芳紀助教、馬場忠教授らの研究グループ。
p21は細胞分裂の周期を速めるタンパク質「サイクリン依存性キナーゼ(CDK)」に結合し、細胞が増殖するのを抑える働きを持つ。その量が細胞内で異常に変動すると、乳がんやすい臓がんなどさまざまながんに影響するとみられている。
ただ、p21は細胞内で約30分から1時間程度のうちに分解されるなど不安定で、細胞内でどのように制御されているかは未解明な点が多かった。そこで細胞内でのp21の発現量を制御する仕組みの解明に取り組んだ。
まず、これまでの研究からp21の発現量を制御している候補物質としてタンパク質分解酵素「ユビキチンリガーゼSCFFbl12」に注目、その作用を調べた。その結果、p21にこの分解酵素が作用すると、p21にユビキチン鎖と呼ばれるいくつかのタイプの数珠状構造物が形成され、p21の分解効率が低下することを突き止めた。そのために細胞内でp21の発現量が増え、がんの発症などと関係が深い細胞増殖を抑制する効果が強まることがわかった。
研究グループは、p21の発現量の制御は細胞が正常に機能するための重要な分子機構だとして「さまざまながん発症や悪性化の新規メカニズムの解明や治療薬の開発に貢献できるのではないか」と期待している。