体外から光で生きた細胞の機能を制御
―カーボンナノホーンと有機色素の分子複合体を利用
:産業技術総合研究所/仏国立科学研究センターほか(2014年10月27日発表)

 (独)産業技術総合研究所は10月27日、フランス国立科学研究センター、東北大学などと共同で、光を使って体内深部にある細胞の機能を制御する技術を開発したと発表した。炭素分子「カーボンナノホーン(CNH)」と有機色素を組み合わせた物質を利用、体外から照射した光で細胞へのカルシウムイオンの流れや細胞膜の電流を遠隔制御できる。アルツハイマー病など脳疾患の分子・細胞レベルでの解明や新たな治療法の開発につながる手法になると期待している。

 

■脳疾患などの治療法開発に道

 

 CNHは炭素原子が結合した炭素分子「カーボンナノチューブ」の一種で、直径2~5nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)、長さ40~50nmの角の形をしている。今回は、このCNHに有機色素を組み合わせた分子複合体を作製。生体透過性の高い近赤外レーザーを照射すると熱と活性酸素を発生する有機色素の性質を、体内の細胞機能の制御に使えるかどうかを確かめた。

 CNHは水の中で粒状に凝集する性質があり、そのままでは光による有機色素の発熱特性を十分に生かせない。そこで有機色素の近赤外蛍光色素とともに水溶性の化学物質をCNHに結合させ、水の中で安定的に分散する分子複合体を作製した。

 この分子複合体を分散させた溶液に近赤外レーザー光を照射して温度上昇を調べた。比較のためにCNHに有機色素だけ、あるいは水溶性化学物質だけを結合させた分子複合体の溶液でも実験したが、両者を結合させた分子複合体の場合に最大の温度上昇を示した。

 また、近赤外レーザー光の照射で発生する活性酸素の量は、レーザー光の強度に応じて変わることが分かった。活性酸素は、生体内で細胞内外へのイオンの出し入れに関わるタンパク質の活性を制御しており、ストレスやホルモン伝達、免疫応答などの生命活動に欠かせない生体内プロセスに関与している。

 これらの結果から、開発した分子複合体を利用すれば体外から近赤外レーザーを照射することで体内の細胞機能の制御に道が開けるという。産総研は今後、新技術を応用して細胞機能解析技術の確立を目指すとともに、アルツハイマー病やパーキンソン病などの脳疾患の新治療法につながる技術の開発に取り組む。

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