根を伸ばして干ばつ耐性高めるイネの遺伝子発見
―同遺伝子導入で干ばつでも通常の30%収穫を確認
:農業生物資源研究所/国際熱帯農業研究センターなど

 (独)農業生物資源研究所(生物研)と国際熱帯農業研究センター(CIAT=コロンビア)などの国際研究グループは8月5日、陸稲の根を深さ方向に延ばす遺伝子を発見、この遺伝子を水稲に導入して根を下に伸ばさせ、干ばつでも通常状態の30%の収穫が得られることを農場実験で確認したと発表した。イネの干ばつ耐性をこれほど高めた例は、世界でも初めて。他の農作物にもこの方法を活用すれば、干ばつに強いトウモロコシなど、有益な農作物の新品種開発の可能性が広がる。

 

■国際イネ研究所と評価予備試験進める

 

 水田で栽培される水稲は畑作物より根の張り方が浅く、土壌の表面付近の水しか利用できないので干ばつに弱い。これに対して、陸稲は根が深くまで張っているので、土壌深くの水まで使えるので、干ばつには強いが収穫量が低い。そのため、研究グループは、根の張りが浅くて干ばつに弱い水稲に陸稲の根の深さに関係している遺伝子を導入することで、干ばつに強いイネを開発しようと考え、遺伝学的手法によって、陸稲から根の深さに関係する遺伝子「DRO1」を発見した。
 そこで、この遺伝子を根の張りが浅く、干ばつに弱いが収穫の多い熱帯アジアで広く栽培されている水稲「IR64」に普通の交配技術で導入、通常の2倍以上に根が深く張ることを確認した。続いて、CIATに干ばつを再現した畑を設け、「DRO1」遺伝子を導入した「IR64」と非導入の「IR」を栽培して収穫を比較した。その結果、遺伝子を導入しなかった方はほとんど収穫ゼロだったのに対して、導入した方は、通常の約30%の収穫を得たことを確認した。
 研究グループは今、フィリピンの国際イネ研究所と共同で、干ばつが問題になっているアジアの天水田(雨水だけでイネ栽培する田)で、「DRO1」遺伝子を導入した「IR64」を実際に評価する計画を行う予備試験を進めている。また、イネと他の農作物の遺伝情報を比較したら、他の農作物にも「DRO1」遺伝子と良く似た遺伝子があることが分かった。これら遺伝子も「DRO1」同様の働きをすると推測されるので、これらの遺伝子を活用することで、干ばつに強い農作物品種の開発も期待される。

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Aは、 厳しい干ばつ条件下での育成。浅根品種(「IR64」)は枯れている個体もあるが、「DRO1」遺伝子を導入したイネは穂が出ている。Bは、干ばつ条件で育てた際の収量の比較のグラフ(提供:農業生物資源研究所)