太陽エネルギー利用の水素製造で世界最高の効率を達成
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は3月12日、酸化物半導体製の高性能な積層光電極を開発、太陽光による水分解水素製造で1.35%の太陽エネルギー変換効率を達成したと発表した。酸化物光電極による太陽エネルギー変換効率としては世界最高で、従来の約2倍。水素製造の電解電圧も大幅に低減できることから、太陽光による低コスト水素製造の可能性が期待できるとしている。
 光電極は、太陽電池や光触媒と同様に、光エネルギーを電気エネルギーに変換できるデバイスの一種。薄い板状や膜状の半導体を片方の電極とし、もう一方の電極と導線でつなぐ。これを電解溶液中に浸しておいて光を照射すると、半導体電極側で電子が光励起される。この電子を補助電源でバイアスをかけて対極に送り込むと水分解により水素が発生する。低電圧で水を直接分解できるという特徴を持つ。太陽光による安価な水素製造を目指して日本をはじめ各国で基礎研究が行われているが、太陽エネルギーの変換効率は太陽電池と比べるとまだまだ低く、システムの高性能化が望まれている。
 産総研は今回、3種類の酸化物半導体膜を積層することなどによって変換効率の大幅な向上に成功した。開発したのは、1層目に酸化タングステン、2層目に酸化スズ、3層目にバナジン酸ビスマス(BiVO4)を導電性ガラス基板上に積層した構造の半導体光電極。「スピンコート法」と呼ばれる薄膜形成法で塗布し、焼成して多孔質の薄膜を作製した。
 この光電極1枚の変換効率は、0.85%だったが、2枚重ねて光閉じ込め構造とし、高濃度の炭酸塩電解液中で水分解反応させたところ変換効率は従来の約2倍の1.35%に向上したという。
 3層にすることで利用できる光の波長が広がると共に、電荷再結合のムダが減ったことなどで効率が高まったという。現状の材料でも水分解の電解電圧は、4割以上低減できることから、この技術を磨くことで将来安価な水素製造技術へと発展することが期待できるとしている。

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新開発の高性能光電極(右)と、対極から発生する水素の泡(左)(提供:産業技術総合研究所)