[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

1400℃の超高温にも耐える新材料の開発に成功

(2017年8月01日)

開発に成功した「格子ラメラ組織」(上)とその模式図(下)。このような格子状の組織をつくったことで高温耐性と強さを両立させた。

 大空を悠々と飛ぶジェット旅客機。音速に迫る高速で飛べるのは、ジェットエンジンのおかげです。ジェットエンジンは、前方から空気を吸い込んで圧縮機で密度を高め、燃料を混ぜて、一気に燃焼させます。このとき発生する高いエネルギーを持つ排気の力を推進力としています。

 この燃焼ガスがエンジン後部のタービン(圧縮機を回転させるために用いる)に入るときの温度は1000℃以上になります。そのためタービンブレード(羽根)には、この超高温に耐える素材が必要です。現在、タービンブレードには、ニッケル系の超合金が使われています。しかし、もっと高い温度に耐える材料ができたら、エンジンの性能は飛躍的に向上します。
 このたび、大阪大学大学院工学研究科の萩原幸司准教授、中野貴由教授らの研究グループは、1400℃という超高温でも高い強度を保つことができる新しい耐熱材料の開発に成功しました。
 研究グループは、以前から1400℃以上の高温に耐える材料を開発中でした。しかし、ニオブ系材料とモリブデン系材料を組み合わせた現状の複相シリサイド合金には、強度に課題がありました。1つは、室温において割れやすいこと、もう1つは、高温時のクリープ強度に問題があることです。クリープというのは、高温になったときに小さな力がかかっただけでも、長い時間の間に材料がゆっくりと変形してしまうことをいいます。
 原因は、複合シリサイド合金では、ニオブとモリブデンの各相が、板状に交互に並んだ構造になっていて、高温には強いものの、相の界面に平行な方向に加わる力に弱かったためです。そこで、研究グループは、クロムとイリジウムをわずかに加えることで、相の並びを格子状の組織に発達させることに成功しました。添付した量は、原子1000個につきそれぞれ5個ずつというわずかな量です。格子構造ができたことで、超高温に耐え、かつ丈夫な材料ができあがりました。
 ジェットエンジンのタービンブレードの耐熱温度が上がると、熱効率が向上して、燃費がよくなります。また、CO2の排出量も減少します。ジェットエンジンだけでなく、ほぼ同じ構造の発電用タービンにも同じ効果があります。
 少し先の話になりますが、内部の温度が2000℃を超える超高温になるスクラムジェットエンジンも視野に入ってきます。スクラムジェットエンジンは、高高度の薄い大気の中を超々音速で飛ぶためのもので、このエンジンとロケットエンジンを併用すれば、大気圏から直接宇宙空間に出て飛行できる宇宙往還機の実現も夢ではありません。

 

 

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記事執筆:白鳥 敬
http://www.kodomonokagaku.com/