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食欲旺盛な昆虫が穀物を食い荒らす!?

(2018年10月16日)

主に冷涼な気候のもとで栽培されるコムギは、大きな打撃を受けると予想される。©️Keith Ewing

 国際連合食料農業機関(FAO)による2017年の報告によれば、世界では8億1500万人が飢餓に苦しんでいます。これは世界人口の9人に1人に相当します。このような状況の中で、地球温暖化の影響による作物の減収が心配されています。年間の平均気温は今世紀中に2~5℃上昇し、作物の生産に負の影響が出るという予測もあるほどです。
 このほど、ワシントン大学のカーチス・A・ドイチュ博士たちは、地球温暖化が進んだ場合、食欲旺盛な昆虫の個体数が増加し、その結果、多くの地域で主要穀物の収穫量が減収に向かうという予測を発表しました。このような予測が、地球規模で示されたのは初めてのことです。この成果は国際的な科学誌『Science』に掲載されています。
 博士たちが注目したのは、世界の約40億人の主食となっているコムギ、イネ、トウモロコシです。気温が上昇したときの、昆虫の反応とこれら3種の穀物が受ける食害との関連性を数学的に予測するために、世界各地から害虫を含めた38種の昆虫を採集し、実験室での研究をもとに、データを集めたのです。
 気温上昇に対する昆虫の反応として着目したのは、個体の代謝率と個体群の増加率です。昆虫の体温は気温ともに変化します。このため、気温が高くなれば、体温も高くなります。体温が高くなった個体では、代謝率が上がり、食欲旺盛になります。さらに個体数が増加することも知られています。
 集めたデータをもとにした数学的なモデル予測の結果、気温が1℃上昇するごとに、コムギ、イネ、トウモロコシの年間収穫量は、10~25%減少することがわかりました。気温が2℃上がると、収穫量はコムギで46%、イネで19%、トウモロコシで31%減少し、年間の損失量は、それぞれ5900万トン、9200万トン、6200万トンに達します。
 収穫量の減少率は、地域によって異なります。例えば、その大部分が熱帯域で栽培されているイネ。それらの地域では、害虫の活動はすでに最大化されているため、さらに気温が上昇しても、食欲旺盛な害虫の個体数は増えないと予測されます。一方で、米国や中国、フランスなどの世界でも有数の農業地域では、害虫の活動が活発化して、個体数が増加するために、穀物の収穫量は著しく減少すると予測されたのです。
 地球温暖化による害虫の被害拡大を防ぐためには、殺虫剤の使用量を増やす、遺伝子組換え作物を活用する、複数の穀物をローテーションして栽培するなど、いくつもの解決策が考えられます。将来の食料を確保するためにも、さらなる研究に注目が集まります。

 

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記事執筆:保谷彰彦
 http://www.kodomonokagaku.com/